第16話 歴史が正しく進むとは限らない

しかしどんなに数が少なかろうと、王家の系譜の枝が二倍から三倍ずつ増えれば、国民総王家という異常事態になりかねない。

すでに好色王ジェイスの次代では上位貴族のほとんどが王家と繋がってしまった。

なんせ王が勝手に「同じ貴族から姉妹での妃は認めない」などと言い出して、上位貴族で未婚の娘を一人ずつ召し上げたのである。

しかし息子しかいなかった貴族は、王家と姻戚を結ぶために王の娘に降嫁してもらうおうと積極的に功を上げた。

王子も多かったが、姫も多かったダーウィン王家は、結果的に優秀な文官も武官も身内に抱えられたのだが、無論そうでない者も親戚になってしまう。

なので──

「王家から出た王族は王族ではないという『目印』のため、タアジル教の神の一柱と契約を結び、イエーミア神の身代わりとして『聖女』という偶像を崇拝させる教えを国教にする代わりに、『王家の証』として王の子孫たちに聖獣を一体ずつ憑かせたのです」

「え…えぇと……?」

イエーミア神?

国教の名前は、実は神様の名前だった?

アディーベルト程度の身分では知りようのない聖女ロメリアの話に、クエスチョンマークが止まらない。

「つまり、王子でも姫でもその時代の王の妃から産まれたら、王宮と大神殿のとある場所に住まう聖獣がその身から新たに聖獣を分け与えるのです」

「は、はい……」

「つまり、降嫁や臣籍降下という形で王家を離れた『元・王族』の子孫には、聖獣は与えられません。例えば侯爵以下の貴族はもちろん、『今の自分は平民でも、祖先は王族だ。王族として正しい扱いと金銭を要求する』と訴え出てきた人がいても、退けられます」

「……あ、ああ!そう…か……」

確かにジェイス王は貴族としか婚姻関係を結んでいないとしても、その子孫がその節度を守るとは限らない。

むしろ『元・王族』は血の権力を使わない、庶民に無体を働くアホはいないと考える方に無理が生じる。

実際ジェイス王の血を引く庶子は、世代を経るごとに増えまくったのだ。

「そこで聖獣の登場です」

ジェイス王はきっとその未来がわかっていたのだろう。

わかっていたなら次々と子を為すことを止めればいいのに、結果に責任を持つ自分以外は信用せずに、人外の神聖なるものにその役目を課した。

その代償は大王国の地に王自身が縛られること、輪廻から外れて聖獣に縛られること──

「それ…って……」

「ジェイス王は永遠に死ねません。ダーウィン王族の正統な、聖獣を受け継ぐ者すべてが死に絶えるまで」

聖女様はおそらくとっても重大なことを、一従者であるアディーベルトに話している。

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