第13話 神の依怙贔屓が非常識

絹袋を縛っていた金色の絹紐が解けると、その中には見たこともないほどの大きな雫型の宝石が入っていた。

何か『特別』な物だとはわかるが、それを女神より授けられた聖女様は喜びよりも、迷惑そうな顔で手のひらの中の物を見つめている。

「あ…あの、それ……って……?」

「はぁ~~~~~………これが、『不死の実』」

「え?え?え?………えぇ────っ!!!」

アディーベルトの悲鳴にも似た声が響いたけれど、女神シアスターはニコニコしながら透ける腕をロメリアの首に絡ませているだけだ。

「……シア。『人間』に対して、このように簡単に『祝福』を授けるものではありません」

「えー。『聖女』の祓いに対する、対価?等価?何か?そんな物を授けただけ?よ?」

うふふ、と笑ってシアスターは今のロメリアには『手に入れたくないモノNo.1』を授けた理由をサラリと告げる。

「いいじゃなぁい。だって、ロメリアはコレを取りに行くんだったのでしょう?」

「……ええ、行くつもり・・・でしたよ?この草原を突っ切った先、北の山の頂きに………」

「エエエエエッ!!!」

それこそ聞いていない!!

アディーベルトの役目は聖女ロメリアの護衛であるが、『不死の実を手に入れるまで』とはどこまで行くのかは知らなかった。

北の山とは、ダーウィネット属王国と隣国との境にある最北端の山岳地方でも、暖かい季節でも山頂には残雪のある高度と、国境たる長さを誇る山の連なりである。

王都から半月、帰ってくるのに半月の長旅となる──はずだったらしい。

道理で聖女と侍女を運ぶ立派な馬車の他に、調理設備のついた長馬車、近衛兵十名以外にもなぜかついてきた下男と下女それぞれ二名。

単に神殿としての見栄や『聖女としての日常』を賄うためのものと思っていたのだが、アディーベルトの見当違いだったようである。

「……それを……何の嫌がらせだぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「ホーッホッホッホッ!北の神などに私の可愛いロメリアを加護させるなど、下々の者が許しても、私が許さなくってよ!」

実体は朧なのに、女神シアスターはスリスリとロメリアの頬に自分の顔を擦りつけて、愛おしそうに抱きしめる。

「……神が依怙贔屓してるんじゃありません」

「神だから依怙贔屓するのよん♪」

「『嫌がらせ』は依怙贔屓とは言いません」

「『過剰愛情表現』は受け取らなくてはならなくてよ♪」

微妙に噛み合わない聖なるふたりを、アディーベルトはただ黙って見守るしかなかった。

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