第14話 無くてもいいもの

見渡す限りの草原には緑が広がり、雲がうっすらとかかる空はどこまでも青い。

そのど真ん中ではぁ~~~~……と長い溜め息をつく憂いた聖女と、温い微笑みで見守る侍女と、満開の笑みで聖女にくっつく女神。


三者三様の美女が、目の前でそれぞれの表情を見せているのは、男として眼福としか言いようがない。

なのに──アディーベルトにはまったく意味が解らない。

聖女ロメリアは従者に行き先を告げずに、国境の『魔の山』ともいえる北の山脈の頂を目指していたらしい。

そんなところまで行かず、王都を出て半日ほどで目的だった『不死の実』を労せず──いや、『聖女の力』で草原に蔓延っていた魔物を一掃したという『ご褒美』で女神から授かったのだが──手に入れられた。

伝え聞くところでは『不死の実』は死者には効果はないが、瀕死状態までならばたちまちのうちに快癒するという。


『不死の実』の『不死』は死ななくなるのではなく、その実を食せば『全快する』だけのもの。


人でも家畜でも、もちろん犬でも。


「……であれば、第二王子殿下のご要望にもう応えられ、『婚約破棄』というあの馬鹿々々しいお言葉は無効という……」

「いや、別に有効にしてもらってよかったのに」

「え?」

危険な目にも限界な寒さにも身を晒さなくてよくなったというのに、聖女は口を尖らせてブツブツ言う。

「だって、この『実』はあの子には必要ありませんもの」

「は?」


「あの子、ヴィヴィニーア様の聖獣よ?死ぬわけないでしょ?ヴィヴィニーア様が死んでないのだから」

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