第12話 手に入ったからには帰…りたくない

どよ~ん……とまるで監禁されているかのように重たい表情のロメリア。

その手にはキラキラと輝く雫型の大きな宝石が絹のハンカチに包まれていて──

「キレイですねぇ……」

うっとりと侍女のホムラが呟くと、呪詛のような声が小さく零れた。

「………た」

「え?」

「どぉして……こう…なった………」

「え?だってロメリア様が勝手に感情を暴走させて、聖女として草原地帯の魔物を一掃してしまったんですよ?そんなの、『祝福』が与えられてしまって当然でございましょ?」

「ホームーラー!!」

「ホーッホホホホッ!諦めて、献上して差し上げればよいじゃないですか~」

石ころだらけの田舎道をガタゴトと車輪を軋ませる馬車で王都に向かいながら、ウルウルと涙をたっぷり紫紺の瞳に溜めたロメリアと、揶揄うように高笑いするホムラ──なぜか車内に同席させられているアディーベルトの方が「どうしてこうなった!」と言いたい。


聖女ロメリアの心の鬱憤が、まさしく『心の叫び』となって草原中を響き渡らせること数十秒。

アディーベルトが恐る恐る目を開けた先には、地面に四つん這いになってうな垂れる聖女と、両手を胸の前で組んだ淡く光る少女──

「め、女神……シアスター……」

呆然と呟くアディーベルトに向かってバチンとウィンクをしてくれたのは、絶対目の錯覚だ。

その長い髪は空のような青色で、肌はうっすらと緑がかっているが、歴代の大聖女の中でもダントツに美しいと言われているロメリアよりも遥かに美人で──

(こぉらっ!仮にも神に向かって『美人』なんて、失敬な!!)

「ひぇっ!!」

耳元で風がひと吹きすると、大音量のセリフがに響いて、アディーベルトは大声を上げた。

「シア……」

「アァ~~ンッ!!ありがとう!ロメリア~~~!!!」

ガバッと半透明の女神が、なぜか意気消沈しているロメリアに抱きつく。

「もう~~~!中途半端な魔物たちがなぜかこの草原に住み着いてしまって……源を探そうにも、あっちこっちから湧いてくるから、なかなか探し出せなかったのよねぇ」

「ぐぇぇ……」

姿は見えても実体はないように思えるのに、ロメリアはよろけながらその女神に抱き締められて、カエルのような声を出している。

「もうこれで大丈夫!次に湧き出るまでに時間がかかりそうだし、今度こそその瞬間に源を叩き潰せば、大掃除完了!!」

魔物退治を『大掃除』と言い切った。

「だ・か・ら………はい!!」

「………マジか…………」

シアスターが握っていた手のひらを開けると、先ほどうっかり発動させてしまった『聖なる光』よりも強い『神の光』が女神の両手から溢れて、艶やかな青い絹袋をロメリアの手のひらにそっと乗せた。

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