第6話 まずは『知ること』から始めよう
とにもかくにも幼い王子を宥めて、ロメリアへの聖女認定の詔が行われ、突然の婚約宣言について王家側、神殿側、そしてフェディアン家で協議がなされることになった。
「……で、さっきのしつれいなかたは、どなたですの?」
別室に控えるようにと言われたロメリアは、フェディアン家特有の紫紺色の瞳を大きく見開き、横に座る十歳上の兄であるルツルカ・メビス・フェディアンに向かって訊ねた。
「あー……」
ルツルカは天を仰ぐように大きく息を吐くと、煌めく髪を軽く振る。
「さっきの『失礼な方』は、現国王ケイアス・ラ・ニェッツ・ダーウィネット・ダーウィン陛下の第二王子の、ヴィヴィニーア殿下だ」
「ヴィヴィニーア……でんか……」
『陛下』や『殿下』とはいったい何なのだろう?
とりあえず『王様』と『王子様』ということだけはわかったが、ロメリアには淑女教育どころか、普通の初等学教育もまだである。
自分では賢そうな顔を作っているつもりだったが、兄のルツルカには『敬称』や王家とはフェディアン伯爵家との関係性などは、まだ幼い妹の理解を超えているのはわかっていた。
「ロメリアは陛下とは別の、我が国にとっての最高位である『聖女』となるから、『陛下』や『殿下』はいらないよ。まあ女性として呼び捨てははしたないから……『様』付けで呼ぶといい」
「さま……?」
「うん。今はまだ第一聖神殿の『聖女』予定であるから、兄もこうして気軽に話せるが……いずれは拝謁という形で、ロメリアのことを『聖女ロメリア殿下』と呼ばぶことになるのかな?」
「…いやです」
兄が軽く笑うと、さっきのわけのわからない求婚騒ぎよりも少し間を開けて、ロメリアの口からは拒否の言葉が出た。
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