第3話 『奇跡』はすべての者に平等です

ガシャンッ!ドカッ!バタンッ!

「ウッギャァァァァ───ッ!!!」

いくつもの破砕音と悲鳴が、神殿の来訪者口に並べられた礼拝者席で派手に上がる。

「うるさいですねぇ……ここは神聖な場だというのに」

騒音を立させてた本人が、のほほんとのたまう。

「……おや?『聖なる光』を受けても滅ばないとは……ひょっとして、『本物』のヴィヴィニーア様でいらしましたか?それは失礼いたしました」

むろん、わかっててやっているのだ。

というか、突然乱入してきて、突然出かけろという意味不明な要求は、初めてではない──さすがに神殿でこんな騒ぎを起こされたのは初めてであるが。


とにもかくにも慌てふためく神官たちに諭され、嫌々ながらロメリアは、あらぬ方向へ腕やら脚やらを曲げてしまっているヴィヴィニーア王子とその護衛たちに対して、片手を差し延ばして雑に治癒の祈りを施す。

「おおお……」

まあ祈る形の見た目はどうあれ、目の前で不自然な折れ方をした人間の四肢が正常な常態に戻る『奇跡』のを目にした訪問者たちから、一斉に溜息と感嘆が漏れた。

実は神官たちも同じように溜息をついたのだが、神聖さを保つために咳払いで誤魔化す。

「こ、このように、聖女様はすべての者に『奇跡』をもたらします。たとえそれが憎むべき『隣人』であっても……ただ貴方たちは『真心』を持って聖女様に祈り、貴方が癒されることに身を委ねるだけでよいのです」

物は言いようだ。

ロメリアには訪問者からの祈りは必要ない。

必要なのは──信心を求める神殿の関係者であり、訪問者の寄進を喰い物にしている腐敗した貴族たちだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る