第3話 お箸と洗濯物
今日はいい天気なので、とある実験をしてみようと思うのです。
「みゃー」
「なぁに?」
「今日は私が洗濯するね」
「私がするも何も、今日はタマちゃんが当番でしょ?」
そうでした。
普段、私がグズグズしていると、当たり前のようにみゃーがやってしまうので忘れていた。
私はエプロンを着用し、洗濯
エプロンのポケットには秘密兵器。
そしてタイミングよく、孝介さんは洗濯機の
「おー美月、洗濯か?」
何も知らず、孝介さんは笑顔で話しかけてくる。
ふふふ、その笑顔が悲しみに
私はポケットから秘密兵器を取り出し、パキッと小気味良い音を立ててそいつを装備した。
割り箸である。
ふふふ、めっちゃこっちを見ているのです。
さあ、
ぽいっ。
私はそれを、汚物でも
「あ……」
さあ来い!
ふざけんなとか言って私の頭を叩きのめすのです!
このタマのアタマをシコタマ叩くのです!
「美月ぃ……」
ガチ泣き!?
「あ、いや、孝介さん?」
「お前、そんなに……」
「孝介さん、バカですか!? あなたの美月の可愛らしい冗談に決まってるでしょう!」
「いや、でも」
「ほら、ご覧ください。手で触るどころか、こうやって頭からパンツを
パンツで視界が
「タマちゃん、ふざけてないで仕事しなさい!」
決してふざけてパンツを被っていたわけではないのですが……。
「みゃーも被る?」
「被らない」
「身体の奥が
「馬鹿なこと言ってないで、しっかり働きなさい!」
「……はーい」
どうもみゃーは頭が固いのです。
「それにしても……」
「どうしたの?」
「シコタマって、カタカナで書くと意味深に思え──あいたっ!」
「働け」
「あいあいさー」
どうもみゃーは、
洗い終わった洗濯物をパンパン叩き、物干し
それを縁側に座った孝介さんが、微笑んで見ている。
膝の上にはサバっち。
「私も主婦業が板についてきたのです」
まあ大学生ではありますが。
おっと、日射しが強いので日焼け止めを塗らねば。
「全然、主婦らしくねーよ!」
私の玉の肌を守るのは、愛する孝介さんの為だというのに、我が亭主は女心を判ってくれない……。
「孝介さん」
「ん?」
「最初は孝介さんの方が下僕だったのに、いつしか私が奴隷のように」
「人聞きの悪いこと言うな! この家でいちばん働いてないのはお前だよ!」
「あらあらかしこ」
「文末かよ! 終わらせんなよ!」
「そうは言いますが孝介さん」
「何だよ?」
「私も大学に通いながら、水槽の魚の世話、庭のタライに飼ってる亀の世話、縁の下のアリジゴク、
「全部お前の趣味じゃないか!」
趣味が忙しくて、毎日が楽しい。
慌ただしいようで、気持ちはゆったりしている。
「そういえば」
「どうした?」
「この家でいちばん働いてないのはサバっちでは?」
膝の上のサバっちが、ジト目で私を見る。
「猫と張り合うな」
「私には夜のお務めが」
「お前がいちばん早く寝てるよな?」
「そしていちばん遅く起きるのです」
「自慢げに言うな」
「寝る子は育つと言いまして」
「身長も胸の大きさも変わってないだろ」
失礼な。
あなたへの愛は、すくすく育っているというのに。
「タマちゃん、お疲れさん」
私が洗濯物を干し終えるのを見計らって、みゃーがお茶を持ってくる。
三人並んで縁側に座り、世間話をしながらお茶を飲む。
世はなべて事もなし。
いや、平穏だけど、日々は豊かに色付いて、胸を高鳴らせたり、目を見張ったり、心踊らされることが毎日のように訪れる。
私を穏やかに包みながら、私の世界は鮮やかに彩られる。
「にゃあ」
サバっち、お前の目にもきっと、その色彩が映ってるよね。
さて、日は西に傾いてきたので、そろそろ洗濯物を取り入れよう。
ん?
「……孝介さん」
「どうした?」
「私のパンツが一つ足りないのですが、使用中ですか?」
「使うかっ!」
おかしい。
割とお気に入りのヤツだったのですが……。
「孝介さん」
「なんだよ」
「隠さず話してください。まだ湿っていて気持ち悪いのではないですか?」
「知らんわっ!」
風で飛ばされたのでしょうか。
「みゃー」
「なぁに?」
「私のお気に入りのパンツ、取った?」
「取るわけないでしょう!」
周りは敵ばかりなのです。
まあいい、今度、孝介さんに好みのパンツを買ってもらおう。
ふう……今日は主婦業に
私の公園デビューも近いのです。
「みゃー」
「どうしたの?」
「お風呂、沸いてる?」
「晩御飯の前に入るだろうと思って沸かしといたよ」
さすが我が家の主婦。
私のような
では、汗もかいたので、晩御飯前にお風呂に入るといたしましょう。
──あ!
お気に入りのパンツは、着用中でありました。
……どうしよう?
てへ、とか言えば、許してもらえるかなぁ。
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