第13話:リムのハンカチと“兄本能”

 リムは焦ってポケットに入れていたハンカチを、照れて、プリシラに半ば投げつけた。

「わっ!・・・・・・」

「これ使えよっ」

「つ、使っていいの?」

「もうやるよっ」

「ガールフレンドからもらったんじゃないの?」

「ガールフレンドからもらったら、お前なんかにやらないよ」

「そ、そうだけど・・・・・・」

プリシラは、また気が沈み、うつむいた。


リムはその顔を見て、少しばかり自責し、念を押すように

こう言った。

「ガールフレンドからハンカチはもらったことがないよ」

「そうなの?」

「ああ。ハンカチ、プレゼントするなんて田舎もんなんだってさ。昔、シーラにハンカチもらったことあったけど、都会あっちじゃ母の日や父の日にさえハンカチなんてあげないんだって」

「ええ、ほんとぉ?」

「うん。ロック兄さんが引っ越してすぐ、ママにハンカチあげたら、女子にダサいって言われたとか」

プリシラの丸い大きな目から涙が消えて行った。


リムは少し意地悪を言ったが、無意識のうちに、プリシラに何かをやって、話をしていると、プリシラが泣き止んでくることを体得していて、口がよく回った。プリシラもリムからハンカチをもらって、それを手で触り、リムと話をしていると、無意識に沈んだ気持ちが上がって涙が出てこなくなるようだった。


「へえ、そうなのお。あたしはリムお兄ちゃんにハンカチあげたことあったっけ?」

「あったよ、父の日にな」リムはニヤっとしてみせた。

「ええ、私バカね!」

「いつもバカだし別に」リムは笑いそうになったが、こらえて、さらりと答えた。


プリシラは

「ケビィもリムお兄ちゃんも同じこと言って」と唸りつつも、

「もうとっくにソレ捨てたわよね?」と、リムのハンカチで涙を拭きつつ聞いた。そのハンカチは目の前にいる、大好きなリムお兄ちゃんの匂いがした。それは何と表現したらいいか分からないが、頼りがいがあって、ほっとする、父親のような、どこか温かい匂いだった。


 リムは、実はプリシラからもらったハンカチを、妹のように可愛いからもらったものとして、恥ずかしいのもあったが使っておらず、執着はないものの、几帳面に畳んで取っていた。しかし、ガールフレンドもいるし、そんなことは恥ずかしいので、プリシラには、

「昔のアニメのハンカチだし、引っ越したし、多分どこかへやっちゃったな」と、しらを切った。

捨ててはいないので、意地悪で捨てたとも言わなかった。それに、本当に引っ越し後は、どこに行ったのか忘れてしまった。


「そっかあ、そうよね」

プリシラが寂しそうに言うので、リムは“兄本能”というものがあるのなら、そういう思いが働き、少し、プリシラの方に身をのり出し、「うん。捨ててはいないよ」と優しく言った。


プリシラは心が温かくなり、

「ありがと。リムお兄ちゃんは嘘言わないもんね」と言って笑顔をリムに向けた。リムは、プリシラのその笑顔を見れて、心の中で密かに喜んだ。でも、口調は冷静にして言った。

「まあな。それで少しくらい勉強はどうだよ?その理科のだけでも」

「怒らない?」

「怒んないはず・・・・・・」

リムは怒らない自信はなかった。


「じゃあ・・・・・・」

プリシラは、中2の1学期の隠していた理科のテスト用紙を、リムにおずおずと出して見せた。




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