第9話:リム家族との昼食

 プリシラの父、ラシェムが自分の畑で収穫したり、近所の農家の人がくれた野菜や家畜の肉など、新鮮な食材で、料理上手のプリシラの母、メルシェラが豪華な料理を作り、テーブルに並べた。プリシラも母に習って作った料理を置いた。ちょっとばかしリムが座る所に近い所に。


リムの母ミリィは、料理が苦手なので、メルシェラの作ったご馳走を見渡して「わあ、懐かしい!ラシェムの野菜やブレジアの、お肉、それとメルシェラの、この料理!」と感動した。新鮮な田舎の野菜にも喜んだ。


すると、リムの父リビィも、それらの匂いを嗅いで、

「本当だね。俺はブレジア鶏肉とラシェムの野菜が大好きだ。本当に新鮮ないい匂いがする」と感激した。でも、あまりメルシェラの料理を褒めすぎると、料理が苦手な妻の顔が立たないと思って控えめに言った。


 すると、柔らかそうなブレジア肉を見て、匂いを嗅いだケビィが、


「僕、お肉食べたい!」と、素直に遠慮なく声を上げた。


「ケビィ!皆でお祈りしてからよ。リム、祈ってくれない?」

ミリィはケビィを制して、食前の祈りをリムに頼んだ。


「え、僕が?」


「ええ、あなた賢いでしょ」


「母さんだって」


「ガールフレンドに嫌われるわよ」


「わ、分かったよ。祈るよ」


そのやりとりを聞いてプリシラは、さっきケビィが言った“お姉ちゃん”は、リムのガールフレンドなのかと思うと、驚くとともに余計に落ち込んだ。 


しかし、プリシラは、リムの祈る声に聞き惚れ、途中、そっと目を開けて、こっそりとリムを見た。


(リムお兄ちゃん、小中高と、どんどん格好良くなっていくわ。でもガールフレンドがいるなんて!その子に嫌われるってリムママに言われたら真面目に、お祈りし始めちゃって。なんてこと!)


プリシラが、そんな風に心の中で思っていると、

「シーラお姉ちゃん、目ぇ開けたら駄目だよ!」と、ケビィも目を開けて、こっそりと突っ込んだ。


すると、プリシラはそれに対抗して、

「うるさいわよ、ケビィ!」と大きな声で言い返した。

「ふんだ、バカシーラ!」

「ふん!チビのくせに生意気ね!」


2人がそんな風に言い合うので、リムが怒ったように大きい声で

「アーメン!」と言い、

「2人とも、僕が祈っているのに静かにしろよ!」と、2人を

叱って祈りを半ば強行的に終わらせた。


「ごめん・・・・・・」プリシラが素直にしおらしく言うと、

「シーラお姉ちゃんて、お兄ちゃんのこと好きなんでしょ」と、

ケビィが笑ってからかった。


「うるさいわケビィ!年上のお姉さんをからかうんじゃないわ」

また、プリシラがケビィに怒って言い返すと、

「そうよ、ケビィ、そういうことは止めなさい。お肉あげるからほら」と、ミリィがケビィを上手くいさめた。


 プリシラが食事をしながら向かいに座ったリムを何度かチラチラと見ると、リムは、黙々と食事をして、プリシラと目を合わそうとしなかった。


「リムお兄ちゃん、あのう、このサラダ、あたしが作ったの。取って食べて?」プリシラが、しばらくして、思い切ってリムに勧めると、リムは、

「ふーん」とだけ言って、素早くサラダを取り分け、また黙々と食べ続けた。


そのリムに、プリシラは、少し遠慮気味に、でも極めて明るく、

「あの、リムお兄ちゃん、おいしい……?ブレジアのアンチョビソース懐かしいでしょ?」と聞いた。


「まあね」リムは鼻の奥まで、プリシラ特製のソースが爽やかに香って懐かしかったが、そっけなく、プリシラとは顔を合わせず返事をした。


「プリシラ、ごめんね。リムはすっかり都会の愛想ない子になったようなの。久しぶりに会えて恥ずかしいのよ。それに、いっちょまえにガールフレンドもいるしね」

ミリィはプリシラが自分の息子に、まさか本気ではないと思って、プリシラを励ますつもりで言った。


「そ、そうですかっ」

プリシラはミリィは自分がリムのことを、ずっと本気で好きなのを知らないのだろうかと、最後の言葉を聞いてまた落ち込んだ。


「母さん、そんな話止めてよ!僕は愛想はあるし、シーラに恥ずかしいなんて思ってないよ。少し疲れて頭が痛いだけさ」


「あら、大丈夫?寝かせてもらう?」


「そこまでしなくても大丈夫だよ。食べ終わったら頭痛薬でも飲むよ」


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