第8話:リムお兄ちゃん!

 リム一家がバレジアからブレジアに遊びに来た。


「リムお兄ちゃん!」


プリシラは背が高くなって、肩幅も背中も広くなったリムに駆け寄り、以前のように気さくに声をかけた。


 しかしリムは、中学生になってから素っ気なくなったものの、高校生になって、さらに、プリシラに、そう笑顔で明るく呼ばれても、ズボンのポケットに手を入れ、プリシラをただ上からチラっと見下ろしてから、ツンと上を向いて返事をしなかった。 


それを見たリムの母ミリィが

「あら、ごめんねシーラちゃん。リムったら都会の高校生気取っちゃってるみたい」とリムの態度をフォローした。


するとリムは、母の言葉がしゃくにさわって、

「気取ってなんかないよ母さん!余計なこと言うなよっ」と苛立ちを表した。


 プリシラは寂しく思いつつ、リムが中学生の時、声変わりした時よりも声が大人っぽくなっていて、その声に聞き惚れた。リムも内心、プリシラは、前は寸胴だったけど、女の子らしく、ふっくらとして、足はキレイに伸びたな、などと思った。


「ねー、シーラお姉ちゃん、僕と美容院ごっこしようよ!」

まだ小学校低学年のケビィが、愛想のない兄とは逆に、プリシラの部屋で、ごっこ遊びをしようと無邪気に誘ってきた。プリシラは、ケビィは素直で可愛いなと思いつつ、リムを上目遣いでちらりと一見して、ケビィの手を取ってリムの前を静かにすり抜け、自室に向かった。


 自室に入ってケビィと2人きりになるとプリシラは、腰を曲げ、片手を背中に当て、ケビィの目線に立って不機嫌そうにケビィに話しかけた。


「ケビィ、あんたなんて、まだ小さくて、あたしの髪の毛綺麗に出来ないでしょ。バレジアに行く前は、あたしの髪の毛をアイロンで焦がしそうになったり、髪をバッサリ切りそうになったじゃない」


「そんなの忘れちゃったよお。じゃあ、お姉ちゃんが僕の髪の毛を綺麗にしてよ」


「嫌よ。あたし美容院には興味無いもん。っていうか、ケビィと遊ぶ気にはなんないわ。いっつも大事なもの壊したりするんだもの」プリシラは上半身を起こして、ケビィを見下ろした。


「そんなのしないよお。僕もう小学生だよ。じゃあ、ダンスや歌は?」


「リムお兄ちゃんと一緒ならね」プリシラは溜め息をつき、面倒臭そうにしてみせたが、一転、態度を変えて、幼く素直なケビィを利用してリムの様子を聞き出そうとして、また小声で聞いた。


「ねえ、ケビィ、リムお兄ちゃんて最近あんな感じなの?」


「えー?あんな感じってえ?」


「なんか、意地悪っぽくなあい?」

プリシラは少しケビィに優しくしてみせ、共感を得ようとした。


「そんなことないよ、優しいよ」

しかし、ケビィはプリシラの言うことを否定する。


「へ~、ほんとお?」


「うん、オレンジ色の長い髪の毛のお姉ちゃんにも優しいよ」


「へっ?何、その人?バレジアの人?“お姉ちゃん”て大人の人よね?」


プリシラは、目を丸くし、リムにガールフレンドの気配を感じて、急に落ち着きがなくなり、顔を歪ませ、ケビィに、“お姉ちゃん”は、リムのガールフレンドではないと否定して欲しかった。しかし、ケビィが話したのはこうだった。


「ううん、お兄ちゃんと同じ組の人で、お兄ちゃんと仲良くしてるよ。シーラお姉ちゃんみたいに、よく家にも来て遊んでるよ」


ケビィは事実を言っただけで、プリシラの気持ちを察することが出来なかったが、プリシラは青ざめて体がすくんだ。 

「ケ、ビィ、その、お姉ちゃん、リムお兄ちゃんと同じ組なの?」

うん、とケビィ。


「家で、リムお兄ちゃんと、そのお姉ちゃんが仲良く遊んでるの?」慌ててオウム返しに聞くプリシラに、ケビィは、

「そーだよ」と、素直にニコニコとして返事をした。


プリシラが、さらに青ざめると、昼食の時間になり、2人はダイニングルームへ行った。プリシラはリムが来たというのに、酷く落ち込んでしまい、食欲がなくなった。




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