二人の時間

 取材から始まった僕らの日常。

 それはとても短いけれど、温かな時間。

 これからも続くことを信じている。

「今日もお仕事お疲れ様です」

 彼女は九条くじょう柚奈ゆなさん。この図書館の職員で、俺の片思い中の人。

 彼女のことを知れば知るほど好きという気持ちが溢れてくる。

 彼女と話す五分間はとても温かで大事なものだが、関係を進めたいという気持ちもある。せめて食事にでも誘えればいいのだが、勇気のない僕はそれが出来ずにいた。

 今ある五分間のかたらいの時間は僕から提案したことなのに、あの時は自分から言えたのに、僕はまた臆病になってしまった。

 誘って断られでもしたら相当へこむだろう。

 かといっていつまでもこのままでいたくもない。

 いっそのこと彼女から誘ってくれないかな、なんて情けないことを考えてしまう。


 関係が一歩も変わらないまま図書館に通いだしてはや三週間。

 この日はいつもと違っていた。

「あの、今度の休館日、空いてますか?」

 いつもの時間が終わりが近づいて来た時、彼女がそんなことを言い出した。

「休館日といえば、今週の水曜日ですよね。その日は空いてます」

 彼女はほっとしたように微笑み、言葉を続けた。

「じゃあ、もしよかったら一緒にどこか出かけませんか?買い物でもお散歩でもなんでもいいので」

 まさか彼女から誘ってもらえるとは思ってもみなかった。

 こういうのは男から言うべきなのに、先を越されてしまった。

 あっけにとられて目をぱちくりさせていると、彼女の不安げな顔が目に映る。

「だ、ダメでしょうか・・・」

「あ、ダメじゃないです!むしろ喜んで!」

 つい意気込んで答えてしまった。

 僕の勢いに一瞬驚いていたがすぐに頬を緩ませ「よかった」とつぶやいた。

 僕から誘うことは出来なかったが、それでも一歩前に進めた気がする。

 ちゃんと、僕から気持ちを伝えられるように頑張っていこうと思える。

 きっと彼女も言い出すのは不安だったはず。それなら僕だってためらってばかりでいるのは違う気がする。

 いつか、好きという気持ちを彼女に伝えられるよう、努力していこう。





               ◯




 斎藤春樹さん。小説家。私の片思いの人。

 彼とは私が経営している図書館で出会い、閉館五分前に必ず話をするようになった。

 彼と話をして、彼のことを知っていくにつれて、どんどん好きになっていく。

 五分だけ話すというこの関係をかえてしまいたいとすら思う。

 かといって、この関係が壊れてしまうことを怖いと思っていることもまた事実。

 だからデートに誘うことも出来ずに足踏みをしてしまっている。

 そんなこんなで知り合ってから三週間。

 いつまでも怖がっていたら何も始まらない。

 もし断られたとしても、それは私が嫌だからなんてことはないはず。私が嫌なら初めからここに来ないはずだから。

 だから勇気を出して誘ってみる。

「あの、今度の休館日、空いてますか?」

 ああ、なんて返ってくるだろう。

 ドキドキしながら返事を待つ。

「休館日といえば、今週の水曜日ですよね。その日は空いてます」

 とりあえず予定がなくてほっとした。

「じゃあ、もしよかったら一緒にどこか出かけませんか?買い物でもお散歩でもなんでもいいので」

 意を決して誘ってみると彼はとても驚いていた。

 何も言わずにただただ私を見ている。

 何かまずかっただろうか、買い物や散歩は嫌いなのだろうか。

 不安になり彼の顔を見つめる。

「だ、ダメでしょうか?」

 そう問いかけると、はっとしたように彼が息を飲み、勢いよく声を出す。

「あ、ダメじゃないです!むしろ喜んで!」

 急に大きな声を出されてびっくりしたが、オッケーしてもらえたことに安堵した。

「よかった」

 そうつぶやいた私の頬はおそらく緩んでいるだろう。

 けれどそれはしかたない。だって嬉しいんだもの。

 いつか、この好きという気持ちをあなたに伝えられるでしょうか。

 その時あなたはどんな顔をするんでしょうか。

 不安な気持ちもあるけれど、それよりもやはり気持ちを伝えたいという方が強くなっている。

 まだその勇気はないけれど、勇気を出せるよう、あなたの隣に立っても恥ずかしくないよう、努力をしていこう。

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五分間のかたらい 星海ちあき @suono_di_stella

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