暁暗流水

それで…。

それでそのあと深月さんは、

どうやって助けられたの?


目を潤ませながら優美が質問してきた。



うん…。

行く時に送ってくれた漁師のおじさん。

約束の時間になっても来ないし、

先生に電話しても出ないものだから、

漁師仲間に連絡をとって、

警察にも連絡したらしいわ。

それからこの祠の管理者である、

入島の許可をとった神主さんにもね。

雨の降る中みんなで

私たち2人を捜索したみたいね。


私の思惑通りスマホの位置情報から探りだしたと思っていたんだけどね…。


違うんですか?


と緑郎が口をはさむ。


そうね。

充電は残っていたけれど…、

日中の荒天のせいもあって受信環境がよくなかったみたい。

私が倒れていたところは

という木だったらしくて、

樹齢もわからない程の杉の大樹…。

湖の水を吸い上げて長い時間かけて

成長したのだろうね。


その木がね…酷く共鳴していたみたい。


…?何と?

…いったい何と共鳴していたの?


私にはよくわからないけど…。


神主が言うには

らしいわ。


神道は自然を崇拝して風と共に生きる多神教



この神社はもともと豊作を願う稲井大社。

本殿に豊作の神、

宇迦之御魂神うかのみたまのかみが祀られている。

それと別宮で左右に祀られているのが

右手雷神宮みきてらいしんぐう

左手月讀宮ひだりてつくよみぐう


つまり三つの神が宿る場所。



共鳴してたというのは神々の意志…。


自然と神鳴の樹まで導かれた。


暁闇流水ぎょうあんりゅうすい……。


月のない闇でも川の水は流れ続ける…。

水は流れるようにしか流れない。




つまりこれはおこるべくしておきたと?


という緑郎に


私はそう解釈したわ。

と答える。




この樹はちょうど祠の裏手側だったみたい。道は見当たらなかったけど、そもそもあまり人の出入りが無い島だからね…。


実は反対側の船着場から10分くらいの所だったみたいね。

おかげで直ぐに船まで…、

といっても漁師さんの小さな船ね。

運んでくれて本土の病院まで行けたというわけなの。


その時の記憶は全くないけれどね。

ラッキーと思うのか?

はたまたそこに落ちるべくして堕ちたのか…




それから先生は?

深月さんを放ったらかしにしていったい

何をしていたの?


優美が飲み終わったコーヒーカップをさげながら聞いてきた。



祠の前でへたり込んで

意識が朦朧としていたみたいね。

すぐに見つかって…。

病院にも行ったのだけど、

でもそれ以来…、

先生は魂が抜けたみたいに言葉を発しなくなってしまったわ。

話す事が出来なくなってしまったの…。



わたしは病院で意識を取り戻したあと、

警察に事情聴取をされたわ。

長い時間をかけて根掘り葉掘りね…。

その時に聞いたのだけど、



やはりその日の昼間に

奥様は他界されたらしい…。




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