からみあう糸 それぞれの思い 生駒隆志

電車を乗り継いで1時間、

駅からはバスもでているが、

1時間に一本のペースでしかこないので、

駅前でタクシーを拾った。


目の前に広がる湖の中に大きな鳥居が見えてきた。その鳥居の正面にある小さな神社が最初の目的地だ。


月の雫という勾玉の書物を自分の恩師から譲り受けたのがきっかけだ。

非常に興味深い内容に加えて、

割と近くで現物がみれるとあり、

大学の許可を得て3日ほどの調査をしにきたわけだ。


この湖には小さな島々がある。

その中の一つの島には向かっていた。


島への連絡線は無いのだが、

本殿であるこの神社に連絡したところ近くの漁師がモーター付きのボートで送ってくれる事になった…。


すいませんね、無理言って。


色の褪せたキャップから

ギョロリとした目でこちらをのぞきこむ。


いやいいよー。

時々いるだよね。

先生は何かの調査?


はい。


あー月のあれだー。


まぁ。


お連れさん具合悪そうだけど…。


だっ大丈夫です…。


本当に大丈夫か?


少しよっただけですから。


麻倉は乗り物に弱いらしい…。


妻はここのところ調子が良いらしく、

声もでないほどに弱っていたのに、

昨日も窓際まで自分の足でよろけながらもあるいて外の空気が吸える事を喜んでいた。


このまま回復に向かえば良いのだが、

先生いわく…


残念だけれど…。

別に癌細胞に変化があるわけではない。


だそうだ。


そんな時くらい側にいてあげればよいものの、自分の性分で気になったら、

いてもたってもいられないのだ。



島に着くと、

漁師に帰りの時間の約束をして、

勾玉の祠へと向かった。


とはいえ人の手入れがないところだ、

舗装された道があるわけでもなく、

道なき道をただ歩き続ける。


いつの時代からあるかもわからない、

傾斜のある石段を少しづつ進んで行く。

鳥たちの声、

何かわからない獣の気配、

木々がざわめく音

光のある方向へ歩き続ける…。


30分ほど歩くと

背の高い赤い鳥居が見えてきた。

いったい誰がこんなところに…。

一つ、二つ、長々と続くこの鳥居。

伏見稲荷大社を思い起こさせる連なる

赤き門 色褪せるでもなく、

鮮やかな赤がしっかりと行く先を示している。


誰がこんな湖の真ん中の島に…。

神々のいたずらか、

古代のロマンか…と

思わずたちすくみ先々を見据えて

生唾を飲み込むと

それが体中を熱くするのを感じた。


何かに出会えるという興奮で

アドレナリンが体中をあつくするのを

身をもって体感している…。


なのにこんな時に急に頭の中は違う思いが

錯綜する。



妻は何故あの花を選んだだろうか…。

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