からみあう糸 それぞれの思い 麻倉深月

昨日までの晴天が嘘のよう…。

その日は朝から重たい雲が

ドンヨリとのさばっていた。


先生から「月の雫」という名前を聞いた時に、とても胸が熱くなった。

作家である父が書いた詩

に同名のものがある。


月の雫


夜は闇

空の青さを奪うように

赤いが空を燃やし、

やがてその赤は

黒い闇たちが塗り潰していく…。

夜に光はないのだろうか?

瞬く星たちは自分では光れない。

光のない闇ほど怖い物はない。

雲間からさす一縷の光、

黄金の月が星々に光を与えて夜を照らす。

今日は雨、

雨の青さを奪うように

黒い闇たちが塗り潰していく。

雨夜の月は雲間から

月の雫を降らすのだ…。



その父が失踪してもう5年がたとうとしていた。


失踪と言っても遭難とか、

行方不明とかではない。

自分から姿を消したのだ。


お父さんは一人になりたいんだって…。


ある日母からはそれだけ言われた。

私はそれを受け入れるしかなかった。



せっかく先生の勾玉の調査に同行する事になったのに、

雲間から微かに差していた太陽は

まるで眠気を催す瞼のように

光を閉ざす。


き、気持ち悪い…。


お連れさん具合悪そうだけど…。


だっ大丈夫です…。


本当に大丈夫か?


少しよっただけですから…。


ただでさえ乗り物に弱いのに昨日の寝不足がたたっているようだ。


島に着くと青ざめた顔がみるみる血の気が戻っていった。

緑漂う森の香りに落ち着きを取り戻した。



私にとって父は大きな存在だった。

普通の?家庭と違って作家という仕事がら、

いつも父は家にいた。

家にいても沢山話すわけでもなく、一人で本を読んでいるか、執筆する為?に部屋に籠っているか…。という印象だった。

小さな時は沢山の本を読み聞かせてくれて、

私が大きくなるに連れて沢山の本を進めてくれた。

神道に興味を持ったのも父の本棚にあった本を読んでからだ。

そんな父が私は好きだった…。


だから父の失踪は私にとってとても大きな出来事だったのだ。



30分ほど歩くと

背の高い赤い鳥居が見えてきた。



私は先生の話を聞くのが好きだ。

講義の内容や神道についてはもちろん、

紅茶や珈琲の話、

好きな本の話、

植物の話…。

先生といるとなんだか落ち着く。



なんとなく父と同じ匂いを感じるのだ。



頬に冷たさを感じた…。

木々の間から見上げると

空がついに涙を流しはじめた。


あー!!


一つ、二つ、長々と続くこの鳥居。

少しぬかるんだ山道思わず足を取られる。



大丈夫か?


先生が手を差し伸べてくれる。

しっかりと握って、

そのまま二人で

朱塗りの門を越えていく。



麻倉!!


はい?!


祠だ。


そこには小さな村の神社の様な、なんの変哲もない建物があった。入口に施錠はなく、板が張り巡らされた建物内部の奥には神棚のような物がある。そこに花が何輪か供えてある?!


きれいな白い花と紫色の花

いったい誰が?いつ?

しかしその花はまだみずみずしいのだ。



先生は私の手をふりほどいて

目を大きく見開いて、

神棚に駆け寄って行った…。






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