朱い糸

目の前のひかり

少しの希望

闇夜の月のよう


とにかくこの場から

立ち去る事だけを考えて

前に進んだ。


その月下に老人がいる。

現代の人では無い。


からすの戯れに出会ってから

不思議と今起きている事が

現実離れしていても、

当たり前の様に受け入れられた。

夢の中の世界のように。


老人というより、

老子

いや翁とでというイメージだろうか?


何をしているのだろうか?


翁の周りには蜘蛛の糸の様に

沢山の糸が張り巡らされている。


毛糸を編んでる?

いやむしろ解れた(ほつれた)

セーターの毛糸をまとめているような…。


赤い 朱い 紅い 糸…。


お前にはこの糸が見えるのかい?


見えるわ。

沢山のいろんな色の糸が

放射状に張り巡らされているわ。


先程までの恐怖は

月の明かりの様な

温かさに感じてきた。

そう思うと翁が悪い人間?

には思えなかった。


ほー。

いろんな…。


はい。

赤い、紅い、朱い。

いろいろなアカ。


ならばこの

朱の糸は

お前が呼び寄せた。


自分の足首から繋がれた

朱の糸を翁は握っていた。


残念だが、

背負う運命だ。

この糸はお前の糸。


お前は今たまたまここを通ったんじゃない。お前が生まれた時から今ここを通る事は決まっていたんだ。


糸が見えた者には、

その糸を見届ける義務があるんだよ。

これは人間の決まりじゃない。

星のほしのことわりだ。


この意味は後にわかる。




気がつけば、

駅の改札の前のベンチに座っていた。


夢でも見ていたのだろか?

そうだとしても、

いったいどこからが夢で

何が現実なのだろうか?

もちろん朱い糸など見えない。


ただ、

後2分で電車が来て、

それに乗らなければ、

13時からの仕事に間に合わないのは

現実のようだ。


そう思いながら手帳のシフトを確認して、

改札にカードをかざした。









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