第69話
『いや。やっぱり、なんでも……』
しかし、俺にそれは出来なかった。
ただでさえ、俺は奏を救えなかった。それこそ、死んだ奏に「友人失格」と言われても仕方がない。
そんな俺が『奏の弟』とも呼べる存在に対して、偉そうな事は……とても言えそうになかった。
『それで……いいの?』
『え』
『だって、ここで翼君がそれについて聞けば、僕はそれに対して「うん」って頷くよ?』
『それ……は、自分で何を言っているのか分かっている……のか?』
『うん、さすがに自分で言っている言葉の意味くらいは分かっているつもりだよ?』
『――――』
この少年の一言を聞いた瞬間。俺は全身の血の気が引いたように感じた。
それは、俺は少年の言葉にただ驚いた……というワケではなく、この少年がちゃんと『理解した上で』この言葉を言っているという『事実』に驚愕していたのだ。
『翼君は、とても優しいね。奏兄さんが気に入るワケだよ』
『いや、気に入っていたワケじゃ』
『謙遜しなくていいよ。だって、奏兄さんが学校から帰って来たら、いつも君の話をしていたからさ。それに、あれだけ分かりやすい証拠が揃っていても、僕を疑っても、それを言わない。僕はそこが優しいって思うんだよ』
『…………』
――違う。俺は決して『優しい』というワケじゃない。
俺はただ……今までの自分自身を恥じて「偉そうな事は言えない」と自分に言い訳をして、素直に聞く勇気が出ないだけだ。
ただの意気地なし……それだけなのだ。
『でもね。僕は翼君が思っているような良い子じゃないんだよ』
そう言って、少年はニヤリと笑い。俺は、そんな不気味な笑い方をしている少年を前に、さらに言葉を失った。
『じゃっ、じゃあ本当に……』
こんな時、どんな言葉をかけるべきなのだろうか。それこそ、奏なら……この少年に対して、なんて言う言葉をかけるのだろうか。
『そうだよ? 僕が今までの事件にちょっと手を加えたんだよ』
『……手を加えた』
『そう、何もかも全部を僕がしたワケじゃない。僕は僕の出来る手伝いをしたまでの話だよ?』
『…………』
『それに、そもそもここは……そんな話をする場所じゃなかったんだ』
そう言って少年は、十字架を見上げた。
『…………』
十字架は、月明かりに照らされ、神々しく光っている。少年が言うには、そもそもこのお悩み相談は、最初は普通に『ゲームに関する事』だけだったらしい。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『でも、ある日。この掲示板の中にゲームとは全く違う相談事があってね』
それは『イジメ』に関するモノだった。
『正直、相談された事は全て答えるのが僕のもっとうなんだけど、そうした相談事は今までなかったから、ちょっと困惑してね』
『…………』
確かに、今までゲームの事しかなかったところにそういった相談が突然あったら、少年じゃなくても困惑するだろう。
『最初はどうしたモノか……って思ったんだけどさ。でも、そのイジメが本当に起きていて、誰にも相談が出来なくて、それで僕を頼って来たのだとしたら……って、考えたら……いてもたってもいられなくなった』
『それは……そうだな』
『それで僕は気になって、その相談をしてきた人のスマートフォンやパソコンに忍び込んで色々と調べたんだよ。まぁ、調べたり彼女がスマートフォンを使っている時にカメラ機能を使って外の様子を観察したりしたんだけどね』
『…………』
話をしている少年の語尾が、だんだんと強くなっている事に俺は気が付いた。
そして、この少年が話している『彼女』というのが『境さんの妹』の『泉美さん』の事を言っているという事も、この話の流れから、何となく分かった。
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