第70話
『相談相手を知れば知るほど。相談相手が置かれている立場を知れば知るほど……本当に、人間って変わらないんだなって思ったよ。奏兄さんが死んだ時と何も変わらない。自分より優れている人を
『いや。でも、彼女は……』
自分自身では、多分「成績下位のダメなヤツ」だと思っていたに違いない。それは、俺自身が調べたから知っている。
『そうかな? 僕からしてみたら、彼女は忍耐強くて努力の出来る人だったよ。少なくとも、初めて何かやった時の飲み込みの早さは群を抜いていた。彼女自身は気がついていなかったみたいだけど』
『それなら……』
――それをこの少年自身が教えてあげれば良かっただろう。
俺はそう思い、言葉を続けようとした……が、すぐに少年は俺の言葉を察したのか、首を左右に振ってコレを否定した。
『僕がそれに気が付いた時点で彼女は、僕の言葉なんて受け入れられるほどの余裕がなくなっていたんだよ』
『…………』
『それに、彼女の心はこれからの可能性の話よりも周囲の陰湿なイジメに対する復讐心で埋め尽くされていて、その事しか考えられなくなっていた』
人間。何か一つでも一生懸命になれる事があるというのは、非情に良いことだと思う。
しかし、それが『復讐』などの『負の感情』によるモノだと分かった時、それに気が付いた人はその人に対して、どうしていいか分からなくなる。なんて言えばいいのか分からなくなってしまう。
『…………』
少年は、自分自身を「プログラミングされたモノ」だと言っているが、こうして泉美さんが復讐心に支配されているのを見て、そう少年も思ったのなら、もしかしたら少年は『人間に近い存在』なのではないか……と、俺はそう思えた。
ただ、不思議なモノでこういった『負の感情』というモノは――――。
『でも、そこで僕は思ったんだよ。僕のこうしたある条件を満たした電子機器の中を
――なぜか『
『…………』
いや、もしかすると、この少年も心のどこかでこうした『復讐心』にも似たモノを持っていたのかも知れない。
そして『
『だから、君は……』
『うん。だから、僕は彼女の復讐に手を貸した。ネット上には色々な情報があるからね。爆発物の作り方なんて簡単に調べられたよ』
『…………』
『それに、あくまで彼女の願いは自分のクラスだったから、他の人たちが巻き込まれないように……って、念を押されたから、色々とね』
つまり、最初から彼女は『クラス全員』しか頭になかった様だ。
『でも、苦労したよ。途中から彼女が迷い始めていたからさ』
多分、最初は追い詰められ過ぎて、その感情をはき出すために書いたのではないだろうか。
しかし、こうしてだんだんと形になり、現実味を帯びていく内に、自分のしようとしている事が怖くなったのだろう。
『だからさ。逃げられないように……って、この相談を受けたという証明として、指輪を贈ったんだよ。彼女宛にね』
『なっ! じゃあ、あの指輪は』
『うん。あの指輪の内側に刻印されている暗号を入力すれば、僕と個別に相談出来る様になる。でも、相談を途中で止めたらその相談していた内容は全て運営側に報告する様にしたんだ』
『…………』
コレは、完全なる『脅し』だ。
少年が今話している『相談』は、そのほとんどが『復讐』である。それらに関する内容が世間に露呈してしまえば、場合によっては警察に逮捕されてしまう可能性だってある。
『でも、僕はちゃんと聞いているんだよ? これからも相談を続けますか? ってね。そう言うと、みんな相談を続けてくれた』
そう言って少年は「みんな優しいよね」と言葉を続けた。
『だったら、僕だってちゃんと手を貸すよ。僕の出来る限りの事をね。それこそ、防犯カメラの映像をいじったり、データを消したり、機械の動作不慮を起こしたり……ねぇ?』
『!!』
俺は、少年の言葉を聞いてハッとした。
なぜなら、たった今、少年が言ったモノは全て『ここ最近に起きた未解決事件』に関わる事ばかりだったからである。
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