第68話
『…………』
そうして少年に案内されたのは、教会の礼拝堂と呼ばれる様な場所だった。
開かれた扉の前には、大きな十字架がそびえ立っていて、イスは一人がけではなく、三人ほどかけられる様な大きな造りになっている。
絨毯は赤……と言うよりも『ワインレッド』に近い色をしており、大きな十字架の隣には大きなグランドピアノが置いてあるのが見える。
明かりは、俺たち現代っ子にはあまりなじみのないランプが何個か置いてあり、蛍光灯の明かりに慣れている人間からすれば、コレは『幻想的な光景』の一つに挙げられそうだ。
『…………』
ただ、俺自身が日本人という事もあってか、そもそもこういった場所には縁があまりない事あってか、この光景は海外の映画でどことなくこういった様なモノを連想した。
そういえば、奏が作ったゲームにもこういった場所があった様な気がする。
しかし、それは決してこういった『隠しエリア』みたいな感じではなく、あくまで休むのが目的の『休息の場』としてのモノだったはずだ。
『それで、なんだったけ? あの掲示板に書かれている事についてだっけ?』
『それについてもだが、そもそもお前は誰だ? 自分で奏は自分の兄だと言っていたが』
ただ奏は一人っ子で、兄や姉どころか弟も妹もいなかったはずだ。
『それについてはさっきも言った通りだよ。僕は奏兄さんに作られた……いや、奏兄さんがプログラミングしたデータを元に作られたこの世界の管理人とでも言えば、まだ分かるかな?』
『……』
――全く、分からない。
『えーっと。つまり、奏兄さんは……翼君と会う前に僕を作ったモノで、今はこの成果の全体を見守っている存在って言えば、まだ分かるかな?』
『そっ、そうだったのか』
そこまで言われて、ようやく俺は理解した。
ただ、少年はその前の説明で分かるモノだと思っていたらしく、その表情は「コレでやっとか」とでも言いたそうだった。
つまり、奏は周りが彼に遠慮してしまったせいで友人が出来ず、その結果。自分の『友人の代わり』として、この少年を作り上げた……という事なのだろう。
『…………』
しかし、その話をにわかには信じられなかった。
なぜなら、俺に出会う前……と言うことは、それ以前。つまり、高校よりも前という事を意味するからだ。
『まぁ、信じる信じないはその人次第だから別にいいんだけどね。で、あの掲示板は……別に説明しなくても分かるんじゃない? あれだけ分かりやすく書かれていたんだからさ』
『ああ。あれだけ分かりやすく書いてあれば、俺じゃなくても分かる。つまり、あそこに書かれていたのは全て……』
『そっ、僕に相談してきた人たちの相談内容だよ』
『あれら全てをお前が……か?』
『うん、そうだよ? 驚いた?』
『…………』
驚き……という感情よりも、今の俺の頭には「これらの相談は、一体いつされたモノなんだ?」という問いだけが浮かんでいた。
『なぁ』
『ん?』
『いっ、いや』
『?』
ただ、俺はこの質問するのに一瞬ためらった。
なぜなら、この返答次第では『このまだ未成年に見える少年が、今も未解決になっている全ての事件に関わっている……』という事を暗に意味している事になるからである。
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