第66話


 そもそも、奏が俺に話しかけてきたのは、図書室で『自分自身も好きなシリーズの本を読んでいる人がいる』と気になった事が、きかっけの様だった。


 そして、そこから「コレは本当の意味で友人が出来るチャンス!」と思い、図書委員になった……と、奏本人から後で聞いた話だ。


 俺は俺で、最初こそ警戒していたが、彼が必死に俺との距離を縮めようとしている事はなんとく分かっていた。


 それに、俺自身もそこまで歩み寄ろうとしてくれている人を無下には出来ない。


 俺もそこまで鬼じゃない。それに、その頃には「まぁ、図書室にいる時くらいは……」と思う様になっていた事もあり、次第に会話をするようになった。


 そんなある日、彼が突然――。


「ねぇ」

「ん?」


「……もしさ、この本の世界がゲームになったら、面白くないかな?」


 なんて事を言ってきた。


「…………」


 俺自身。そんなにゲームには詳しくなく、そもそもそんな発想なんて出来なかったから、奏のその話に目を丸くした事をよく覚えている。


 そもそも俺は、その当時からあの人とは離れて生活をしていたし、弟の光は入院こそしていなかったものの、ほぼ毎日の様に通院していた。


 そんな状況だから――という事ではなかったが、この時の俺は意図的に『娯楽』と言えるモノにあまり触れない様にしていた……というのも一つの理由だとは思う。


 でも、俺が知っている限りの『ゲーム』の情報と知識を『想像』という形で置き換えて考えた結果――。


「うん、面白そう」


 俺は奏の話に共感した。


「……そっか」


 なぜなら、俺たちがハマっていた物語は、そういった『ゲーム』という世界にはピッタリな世界観だったからだ。


『奏兄さんは、自分に共感してくれる人がいるという事に嬉しさ以上に、感動した』

『……そうだったのか』


 この時の奏の顔はよく覚えている。


 確かに、あの時見た奏は、なんとも言えない『嬉しい』という感情が爆発したような表情をしていた。


 でも、当の俺は「何がそこまで嬉しいんだ?」と思っていた。


 なぜなら、この時の学校のほとんどの人が彼が言う事なら、大体の人は「そうだよね!」とかなんとか言って賛同してくれそうだと、思っていたのだ。


 しかし、実際のところ。彼は何となく分かっていたのだろう。


 その賛同の言葉を言っている人たちが『上辺』か『本心』で言っているのか……その程度の事くらい。


 そして、俺の言葉にそれだけ『感動した』という事は……。


 つまり、彼はいつも「みんな。俺の言う事に賛同してくれるけど、それって本心じゃないよね」と思っていたという事なのだろう。


『奏兄さんは、昔からそんな上辺ばかりの人たちに囲まれて生きて来た。両親だって親戚だって、学校の人たちも含めて全員が全員。でも、誰一人として兄さん自身を見てはいなかった』

『…………』


『そんな中で……君が初めてだって喜んでいたよ。それで、自分でゲームを作って翼君にやってもらった』

『ああ』


 俺は最初、奏が「やっと出来たんだよ!」と笑顔で俺の教室に来た時。正直「何のことだ?」と思った。


 しかし、興奮しきりの奏に引っ張られる様に連れ行かれた奏の家でそのゲームをプレイした時……本当に感動した。


『まさか、本当にいちからあれを作ったという事には驚いた。まっ、まぁイラストはともかく』

『そこはフリー素材のオンパレードかつどうしよもないところは自作だったから、黙ってあげるのが礼儀だよ』


『そうだったな。奏の人物画は……結構前衛的だったな』


 そういえば、美術の授業で見せてもらった自画像がとんでもなかった事は覚えている。


『だが、なんで風景とかはあんなに繊細なモノが書けるんだ?』

『それは……まぁ、奏兄さん自身に興味があるかないかによって画力も……ね』


『それにしたって偏り過ぎだろ。人物の絵なんて、小さい子供が見たら泣くぞ。あれは』

『僕も出来る限りフリー素材として使えそうないい人物画を探したんだけど、フリー素材にも……限界って、あるんだよ』


 その時の事を思い出しているのか、少年はどこか遠い目をしている。


『そっ、そうか。悪かった』

『いや、いいんだよ。世の中、仕方のない事があるんだって、分かっているから』


 そんな、なかなかな独特な芸術センスを持っている奏に、最初こそ驚かされたが、それ以上にそのゲームの作りこみがすごく、やっていく内に俺はどんどんのめり込んでしまんだ。


 結局、その日はそのまま奏の部屋に泊まらせてもらった。


 そしてその後、俺は奏に光を紹介し、あのとんでもない人物とモンスターを数対付け加えてバージョンアップしたモノを光も一緒になって楽しんだ。


 正直。あの時の事は、俺の学生時代の中では『一番』と言っていいほどの『いい思い出』だと思っている。

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