第63話


「兄さん、調子はどう?」

「ん? ああ」


 手術日の予定日が近づいている事もあり……という建前なんて必要もなく、いつも通り光の元を訪れていた。


「なんか、上手くいってなさそうだね」

「…………」


 なぜ、光はこういった『察する』という事に長けているのだろうか。それほど、俺が分かりやすいのだろうか。


「兄さん?」

「あっ、ああ。正直『バッチリ』って言いたいところなんだけどな。なかなか簡単にはいきそうにない」


 正直、ゲームの内容自体は昔と比べてバージョンアップされていた。


 どこら辺が……かと言うとただ単純に『選択肢が格段に増えている』という点が一番だろう。


 もちろん、モンスターを狩る方法とも言える『武器の選択』は当然なのだが、それだけでなく、そもそもモンスターを狩らない『職業』例えば『鍛冶屋』や『飲食系の仕事』や『出店』と言ったモノを選ぶ事も出来る様になっていた。


 しかも、この『職業の選択』はいつでも変更が可能の様なのだ。ただし、メインはあくまでモンスターを狩る方に重きを置いているため、基本的にそれ以外の職業は『ミニゲーム』が主体になっていたが。


 それでも、プレイヤーはそれぞれこのゲームの中で『自分で自分の生活を選んでそのゲーム遊ぶ事が出来る』らしい。


「正直、今はただただ単純にこのゲームを楽しんでいるだけになっていて……だな」

「普通なら、それでいいんだけどね」


「ああ。ただ、俺の目的はそれじゃない」

「そうだね……って、あれ? そもそも最初にゲーム紹介で『ナビゲーター』って出会うんじゃなかったけ?」


「ああ、そうだな『通常』ならな」

「??」


 この光の反応はそれこそ『普通』だろう。そこで、俺は境さんと神無月さんとの会話の内容をそのまま光に話した。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「……そっか」

「はぁ、全く。運が悪いんだか良いんだか……」


「普通なら『ものすごく運が良い』って、羨ましがっていいところなんだろうとは思うけど」

「ああ、何しろ。そのモンスターが出るのはものすごい確率らしい」


「僕もこの話を聞いた時は『都市伝説』とかそういった類の話かと思っていたよ。現にそのゲームをプレイした時に、そのモンスターには出会わなかったし」

「そうだったのか」


「でも、そういったモンスターは確かにデザインはしていたんだよ。ただ、どこを探しても見当たらなかった。でも、没にもなっていなかったから、ずっと不思議には思ってはいたんだけどね」

「ああ。そういえば、光はモンスターのデザインとかしていたんだよな」


 そう、光はあのゲームだけでなく『キャラクターのデザイン』とかをしている。


 元々、小さい頃から絵を書くのが好きだった事もあったとは思うが、学生くらいにもなると、自分でネット上に投稿する事も多くなった。


 俺もたまにネットを覗く事もあったが、なかなか評判は良かったと思う。


 ただ、光は体が弱い。本人は「ただの趣味」と言って謙遜していたが、色々な事に挑戦したかったのだろうと思う。


 しかし、光は中学を卒業するのが精一杯で、高校に進学するのは難しいという話になり、叶わなかった。


 そんな中、あの人は「デザインの仕事をしてみないか?」光と提案をしてきた。


 実は、光はこの話が来る前から少しだけそういった『デザインの真似事』をしていた経験があった。


 それは、この『バスター・ワールド』の原型であるキャラクターデザインを奏から依頼を受けて、光がしていたのである。


 奏としは「ちょっとしたサプライズ」のつもりだったらしいが、俺は驚きと感動で泣きそうになったのを憶えている。


 まぁ、そういった経緯もあって光は今もこのゲームのキャラクターデザインを引き続けてしているのだが……。


 このゲーム内のキャラクターをデザインをほとんどした光が「このモンスターのデザインをした」というのであれば、それが『答え』なのだろう。


「はぁ。それにしても、どこなんだろうな。この『教会』って場所は」

「ん?」


「いくら探しても見当たらないんだよ。もし、最初にナビゲーターに会えなかったら『ここに行けば会える』って聞いていたんだけどな」

「…………」


 そう、実は『何でも相談が出来る』という事と、神無月さんが言った『掲示板』と『ナビゲーター』という言葉を頼りに、俺はゲーム内を探し回り、何とか「教会という場所にいる」を突き止めていた。


「やっぱりそれなりにやり込みが必要なのか?」


 しかし、肝心の『教会』の場所は分からず、事態は膠着こうちゃくしたまま止まっていた。


 色々と考えた結果、俺が辿り着いたのは『そもそもレベルが足りていない』という事だったのだが……。


「いや、でも。そんなヒマは……」

「そんな心配しなくて大丈夫だよ」


 そう考え込んでいる俺に、光はそう言って笑った。


「え」

「ログインしていれば誰でも行ける場所だから」


 そして、何やら心当たりがあるのか、光は机の上に置いてあった自分のパソコンを取り出し、カタカタと操作し始めた。

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