第64話
「……ここか」
そこは、プレイヤーが最初からいる場所から少し離れたところにあった。
俺は一昨日に光からこの場所の説明を受けた時、正直「なんで気が付かなかったんだ?」と不思議に思ってしまった。
でも、光曰く「そうは言っても、元々は普通のプレイヤーはこんなところに用はないからね。気が付かなかったのも無理ないよ」と言って笑っていた。
それに、基本的なゲームの内容は昔と大きな変化はなかったが、それ以上に範囲……いや、世界観が根本的に広くなっていた。
だから、情報を集めて大体の場所を分かっていたとしても、俺は「こんな近くにはないだろう」と、無意識にここを除外していたのだろう。
これこそ『灯台もと暗し』である。
「…………」
そして、このゲームは現実世界と時間の流れがリンクしており、ゲーム上も現実世界も今は『夜』だ。
本当はもっと早くにやるつもりだったが、色々と仕事が立て込み、こんな時間になってしまった。
「いや、むしろこの方が都合がいいか」
今の時間にゲームをプレイしているのは、夜更かしをしている子供か仕事終わりの大人くらいだろう。
そんな時間だからなのか、外は真っ暗……なのだが、その『教会』には『灯り』がついている。
まぁ、普通なら人がいさえすれば、灯りがついているのは当たり前の話だ。
むしろ、灯りがついていない方が逆に「何かついていない理由があるのか?」という理由を勘繰りそうになる。
「しっかし、灯りがついていても気がつかないモノなんだな」
いや、もしかしたら「灯りがついている」という事は「誰かが住んでいる」という事になる。
普通の現実世界であれば、この状況は『入ってはいけない』と取るだろう。
もしも、仮にそこに住んでいる人の許可無く勝手に入ってしまえば、それは完全に『住居侵入』などの犯罪行為になってしまうからだ。
「まぁ、どうやらこの教会は誰でもウェルカムみたいだな」
その証拠に、自分の分身でもあるアバターを扉の前に動かし、マウスでクリックすると、簡単に扉は開いた。
どうやら、この建物に鍵はかかっていない様だ。万が一鍵がかかっていれば『鍵がかかっている』という表示がされる仕様になっている。
「……」
そして、扉が開かれると、すぐに画面が教会の内部へと切り替わり、俺の画面には三つの扉が映し出された。
「光が言うには、この建物を入って真っ正面の扉にいるんだったよな……」
光の説明によると、この教会こそが、最初に出会える『ナビゲーター』と唯一出会える場所であり――。
「ん? なんだ、コレ」
ここで『お悩み相談』が出来るらしい。
真っ正面の扉に入る前に、俺はたくさんの紙が無造作に貼られている『掲示板』の様な場所で立ち止まった。
「……おいおい、コレって」
最初はただの好奇心だったと思う。一応『掲示板』については今まで話題にも出ていたから――。
「…………」
しかし、そこに貼られている『紙』を何度かマウスでクリックしていく内に、自分の中でだんだんと『何か』が込み上げて来るような気持ちになった。
「!!」
多分「違う、そんなはずはない」と自分に言い聞かせていたのだろうが、そんな自分の気持ちとは裏腹に、俺は『決定的なモノ』を見つけてしまった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『…………』
『……ーい、おーい』
『っ!』
『あっ、ようやく気が付いたね。こんにちは』
俺は『見てしまったモノ』を前に絶句してしまい、すぐ隣に『誰かがいる』という事に気が付けなかった。
『こっ、こんにちは……って、え』
『ん? どうかしたの?』
そして、俺に話しかけてきた『その人物』の方を見ると、またも驚く事になった。なぜなら――。
『かっ、
そう、パソコンの画面に映し出されていたのは、亡くなってしまったはずの……
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