第62話


 そして、こちらでも『通常なら簡単に会えるのに、会えなかった』少年が一人いた……のだが、こちらは少し様子が違っていた。


「はははっ! 本っ当に面白いや。翼君は! 僕の予想を簡単に超えていくね」


 先ほどの彼は「運が良いのか悪いのか」とショックを受けていたが、こちらの少年はむしろこの状況を「予想外だよ!」と言って、笑っている……どころか、笑いすぎて軽く咳き込む勢いだ。


『ごっ、ごめんなさい』

「え?」


 そんな少年を尻目にそう言って謝ってきたのは、通常は出会えばとても喜ばれる『レアなキャラクター』である『モンスター』だった。


『わっ、私が出て行ってしまったから……本来なら簡単に会えるはずなのに』

「いやいや、君は自分の仕事をしただけに過ぎないよ」


 笑いすぎて涙が出てしまっていたのか、少年はその涙を軽く拭いた。


『でっ、でも』

「確かに、こういった『ボーナス』は元々の原型には付けられていなかったから、翼君も相当驚いただろうけどね。もしかしたら『性別は男』と考えればなんとか……なんて考えていそう」


 そう言いながら、少年はまたも笑いそうになっている。


『それなら、尚の事あなたが出た方が良かったのでは?』

「うーん。そもそも君を引き当てるには『運』が必要だからねぇ。ただ単純に翼君が運が良かっただけなんだよ。うん」


 それこそ、このモンスターに会いたいが為に、何度もタイトル画面からログイン画面を行ったり来たりして仕切り直しをする人がいるほどである。


「だから、君は全然悪くない。むしろ、気にする部分なんてどこにもないんだよ?」


 少年はそう言って励ましたが、それでもモンスターには思うところがあるらしく、小さく「でも、やっぱり……」と呟き、可愛らしいもこもこの尻尾も悲しそうに下を向いている。


「そ・れ・に!」

『!!』


 その様子を見ていた少年は、そう言いながらズイッとモンスターに顔を近づけた。


「僕としては、最初のゲーム説明で『絶対話をしないといけない』っていう状況で会いたいんじゃなくて、翼君に『会いに来て欲しい』んだよね」

『あっ、会いに来て欲しい?』


「そう。だから、僕としては最初に会わなくてよかった……って、実は思っているんだよ」

『……そっ、それなら』


 ――良かった。


 そう言って、モンスターはホッとした様子で笑顔を見せ、可愛らしい尻尾をピョコピョコ動かした。


『でっ、でも。来てくれるのかな? ここに』

「うーん、どうだろ。でも、多分大丈夫じゃないかな」


『何か確証でも?』

「いや、ない。そりゃあ、ただ短純に『ゲームをやりたい!』っていう人なら、そもそもここに来る必要性はないから難しいかも知れないけど」


 少年がそう言うと、モンスターは「そうだよね」と言いたそうな表情を見せている。


「でも、翼君の目的は『ゲームを楽しむ事』じゃないから」

『そっ、そうなの?』


「うん。だから、大丈夫」

『それなら……良かった』


 そう言ってモンスターは穏やかな表情を見せた。なんだかんだ言って、このモンスターは人間が好きなのだ。


『じゃっ、じゃあ私は……これで』

「うん、それじゃあねぇー」


 モンスターはそう言って、律儀にピョコンと可愛らしく頭を下げてその建物から出て行った。


「……うん。彼がこのゲームを飽きなければ、すぐに会えるよ」


 ここはプレイヤーが最初に訪れる場所のすぐ近くにある場所だ。


「ただ、ここって見つけるのが難しいんだよねぇ」


 そう、実はこの場所は本来であればゲームそのものの本筋とは全く関係がない。


『すぐ近くにあるのに分からない。文字通り灯台もと暗し』


 しかも、プレイヤーはそもそもゲームを楽しむためにプレイしている事もあり、ここの情報はあまり出回っていない。


 そのため、彼は「なんでも相談出来る場所がある」という『噂』程度の情報しか知らないはずだ。


 しかし、その程度の情報だけでこの『建物』を見つけるのは、なかなか至難の業だという事は、この少年も何となく分かっていた。


 だからこそ「このゲームに飽きなければ」と言ったのだろう。


 そう、何事も飽きなければ、諦めなければ何かしらの『形』になる。たとえそれが、その人が望んだ『結果』ではなかったとしても――。

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