第60話


 彼がどれくらい『美男子』だったかというと、休み時間中に学校中の女子が彼のクラスにわざわざ見に行くほどだった。


 ただ、ここで注意して欲しいのは彼が『イケメン』とか『モテる』とかそういう事ではないというところである。


 いや、さすがにモテてはいたと思う。


 だが、それ以上に彼。奏はそもそも『美しすぎて近寄りがたい』という見た目をしていた。


 しかし『近寄りがたい』とは言っても『美しすぎる』という時点で、彼に話しかけられているイコール『目立つ』という事は目に見えている。


『…………』


 だが、そんな相手に話しかけられたにも関わらず、俺みたいな普通のヤツが適当にあしらうのは逆にまずい。


 それこそ「せっかく奏くんに話しかけられたのに、なんなのあいつ」とか女子の間で噂になんてなった時点で、確実に『目立って』いる。


――それにしても、そんな彼が図書委員だったとは知らなかった。


 ここはよく利用しているのだが、それでも今まで彼が図書委員としてここにいた事を見たことがない。


 それに、いつも『目立ち過ぎている』にも関わらず、今日はなぜか彼の周りには誰もいないという事も気になる。


『そっか』

『…………』


『? あ、ひょっとして僕が一人でここにいるのが気になる?』

『え、あー。まぁ』


 俺がそう言いつつ、どこに向ければいいのか分からず適当に視線を泳がせていると、彼は「やっぱりー」と言ってなぜか楽しそうに笑った。


『そりゃあ、図書委員になって初めての貸し出し作業だったから、急いで着替えて来ましたとも!』

『…………』


 ああ、そういえば。先週から学期が変わってそれに伴って委員会や係が一斉に変わった事を思い出した。


 まぁ、俺はいつも誰も手を挙げない係を適当に選んでいるから、そもそもあまり印象に残っていなかったから忘れていた。


 ただ、彼が言っているのは要するに『早く図書委員の仕事をしたいが為に、体育の授業の後、急いで着替えて来た』という事なのだろう。


 だから……と説明をしたのだろうが、それでも彼が『一人』という事は……一体どれだけ急いで来たというのだろうか。


 そもそも、彼が図書委員になった事くらいすぐに広まりそうな話なのだが。


『まぁ、俺が図書委員になった事はすぐに広まっちゃうと思うけど、さすがにこの時間帯に来る人はなかなかいないよ』


 そう言って彼は可愛らしく笑った。


『……それはどうも』


 でも、とりあえず適当に学校生活を送っている俺からしてみれば『みんなが嫌がる委員会の仕事にも一生懸命になれる』彼が眩しく見えた。


『…………』


 だが、それと同時に「さすがにさっきの言葉の時にガッツポーズまではしなくてもいいだろう」と思ってしまったのは、やはり俺が冷めているのだろうか。


 そして、こんな何気ない会話が俺と彼との『出会い』だった――。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「ん?」


 そんな昔の思い出を思い返しながらゲームを進めている途中で、俺はゲームの流れを教えてもらう流れになり、そこで『ナビゲーター』に出会うはずだった……のだが。


「んん?」


 なぜか、ナビゲーターとして俺の目の前に現れたのは『男』ではなく、しかも『女』でもない、性別不明の全体もこもこの毛に覆われた丸い可愛らしい『モンスター』だった。


「どういう事だ? 確か話に聞いていた『ナビゲーター』って『人間の少年』だったはずだよな?」


 そう一人でブツブツと呟きながら、俺は固まったようにそのゲーム画面を凝視した。


「…………」


 まぁ、百歩譲ってこの『モンスター』の性別が『男』だとしよう。


「いや、でも……だな」


 それでも、何度見ても俺には目の前にいるこの『もこもこ』がとても『人間』には見えなかった。

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