第61話
「はぁ……」
ため息混じりに、俺はテーブルに突っ伏していた。
「お疲れの様ですね」
「いや、それにしてもじゃないか? いきなり来たと思ったら、今度は盛大なため息と共にテーブルに突っ伏すって」
「それだけ疲れているという事なのでしょう」
「えぇ、そういう解釈になるか? 俺には『疲れ』よりも『何か上手くいかなかった』っていう残念な意味でのため息だと思ったんだけどな」
「? なぜそう思うのですか?」
「はっ? いや、俺に聞くなよ。何となくそう思っただけだ。そんなに気になるなら本人に聞け。本人に」
「それが出来れば苦労しませんが?」
「……そんなに怖い顔するなよ。分かっているって、気になるからこそ、聞けないってヤツだろ」
なんて、突然交番に現れてテーブルに突っ伏している俺を気遣ってか、境さんと神無月さんはコソコソと二人で話をしている。
「…………」
そして、二人はどうやら自分たちの会話は俺に聞こえていないと思っているようだ。
――でもまぁ、そんな心遣いも虚しく……俺の耳には残念ながら、コレがバッチリ聞こえているのだが。
「それで、ご用件は一体なんでしょう?」
「ん?」
「いえ、西条さんが来た大体の理由が『事件に関する事』でしたので、今回もそうなのかと思いまして」
「……ああ。そうだったな」
確かに『いつも』であれば、何かしらの『目的』を持ってここに訪れていた。
「いや、具体的な『目的』ってほどの事じゃないんだが、少し聞きたい事があってな……境さんに」
「俺に?」
「ああ、実はこの間ちょっと話した時に話題に出てた『ゲーム』の話なんだが」
「ん? ああ、あれか」
境さんは、この間の一件で知っているため頷いた。だが、その話を知らない神無月さんは不思議そうに首をかしげている。
「ゲーム……ですか?」
「ああ、なんでも今流行っているらしくてな。名前は確かバスター……」
そう境さんが途中まで名前を言うと、神無月さんは「ああ!」と言って両手をポンと叩いた。
「知っています。そのゲーム。確か、お悩み相談が出来るんでしたよね?」
「ん? あっ、ああ。そうらしいな」
神無月さんのリアクションに驚いたのか、境さんは若干後ろにたじろぎながらも答えた。
「神無月さんも知っているんですね」
「ええ。確か、相談の内容はなんでもいいとか」
「何でも?」
「はい。その相談出来る掲示板で、この間あったペットの一件を相談した彼女からと聞いています」
その言葉に、俺は思わず驚いた。
確かに、あの一件は神無月さんも関わっていたが、そもそもは彼女自身が俺の元を訪れてきたのがきっかけだ。
まさか、こんなところでも繋がっていたとは――。
「で? そのゲームがどうしたんだよ」
俺と神無月さんが勝手に盛り上がっていたからなのか、境さんはどこかふて腐れた様子で俺に尋ねた。
「あ、ああ。実はそのゲームを始めた時に最初に説明をしてくれる『ナビゲーター』がいると思うんだが」
「ああ、いるな。人間の……あの見た目は『少年』って表現出来る年じゃないか。そいつがどうした?」
「それが、俺がゲームを始めた時に『ナビゲーター』として現れたのが……なんかよく分からない全身もこもこした『モンスター』でな」
「なるほどな。それでわざわざ聞きに来たってワケか」
境さんの言葉に頷いたが、当の境さんは心当たりがないのか「しかし、モンスターか」と言って、首をひねっていた。
「もしかして、それって……」
しかし、神無月さんは何やら心当たりがある様だ。
「神無月、何か心当たりでもあるのか?」
「あっ、はい。多分その『モンスター』は、いわゆる『レアなキャラクター』で、そのモンスターが最初の説明に現れると、話の最後に『最後まで聞いてくれてありがとう』って言ってそのゲームで使えるコインをくれるらしいんです」
「ん? でも、それって通常の場合でもくれたとはずだろ」
「いえ、それがこのモンスターの場合は通常の倍になるんです」
「え! 倍!?」
「心当たりなかったのか?」
「いや、確かに『やけにもらう量が多いな』とは思っていたが、てっきりそれが普通だと」
「まぁ、他を知らなきゃそうなるか」
「でも、なかなかお目にかかれない『モンスター』ですよ。運が良いですね」
「…………」
そう言って神無月さんは笑っていたが、俺としては全然嬉しくない。
確かに『何も目的もなく、ただただゲームを楽しむだけ』というのであれば、このモンスターと出会った瞬間に喜んだり嬉しかったりしたのだろう。
だが、とりあえず『今の状況』でこの『レアなモンスター』に出て来られてはかなり困る。
なぜなら、そのせいで俺は『目的』であるはずの『ナビゲーターの彼に会う事』が果たせなかったのだから。
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