第5話
「元気そうだな。
「うん、兄さんも元気そうでよかった」
病室に入ってきた俺に気が付くと、ベッドに腰かけていた『白い少年』は顔を上げて満面の笑みで答えた。
ただ、見た目は黒髪黒目の俺とは違い、少し白っぽい髪をしている。そして、光の好みなのか、いつも着ているモノも白いモノが多かった。
目も、パッと見た感じ少し黒みが薄い……と、これほど見た目が違うからなのか、俺たちを初めて見た人は『似ていない兄弟』と勝手に思われ、変に気を遣われる事が多かった。
「あ、そうだ。いつもの『ヤツ』買って来たぞ」
俺は早速、光のベッドの前にある机の上に買ってきたシュークリームが入ったケーキの箱を置いた。
「いつもありがとう、兄さん」
「いいって、気にするな」
「それにしても、いつも思うけど兄さんがケーキ屋さんでケーキを買っているっていう光景を想像するだけで……うん。面白いね」
「ははは、まぁそう言うな。別に男がケーキ屋に行っちゃいけないって決まりはないだろ?」
そう言うと、光は「そうだね」そう言いながら口元に手を置きながらクスクスと笑った。
それに、光の言う通り『俺みたいな男と可愛らしいケーキ屋。さらにファンシーな雰囲気を添えて』は、自分でもかなかな違和感だとは、実はいつも思っていた。
まぁ、それはそれとして――。
「失礼だな。せっかく人が買ってきてやったって言うのになぁ。全く」
俺がそう言いながら置いた箱を下げようとしたところで――。
「ごめんごめん。ありがとう」
「……全く調子のいい」
「あっ、そうだ。飲み物なんだけど」
「ん? コレだろ? いつも飲んでいる」
「え、買ってきてくれたの?」
「いつも飲んでいるからな。ただ、いつもストックされていたから、いらないかもとも思っていたんだが」
「ううん。今日に限って残り一本しかなかったから、どうしようとかと思っていたんだ。ありがとう」
「どういたしまして」
俺がそう言うと、光は「助かったぁ」と安堵の表情を見せていた。
確かに、いくら甘いモノが好きだと言っても、シュークリームに限らず、甘いモノには飲み物がないとなかなかにキツイ。
一応、この三階にはちょうど自販機がたくさん置いてある場所もあるにはあるが、いつも光が飲んでいるモノは一階のコンビニにしかない。
しかも、俺が「そろそろ着く」と連絡を入れた事もあって、さらに困っていたのだろう。
「それで、俺に聞いて欲しい話ってなんだ?」
「あっ、そうだった。それで呼んだんだった」
「おいおい、確かに『探偵』としてはヒマを持て余している人間だが、なんだかんだで色々と大変なんだぞ?」
「ははは、ごめんごめん。ちょっと待ってて、呼んでくるから」
「呼んでくるから?」
「うん」
光はそう言うと、そのままパタパタと病室を出て行った。
「…………」
今の言い方だと、俺に用があるのは光ではなく『光の知り合いの誰か』という事になる。
しかし、そんなに仲のいい人がいる事自体知らなかった俺は内心少し複雑に思いながらも、光が帰ってくるのを大人しく待つことにした。
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