第50話 忘れる才能と変換する力=ポジティブ●
さてどうしたものか……。
このLINEが僕を悩ませた。
しばらくスマホと睨めっこする……。
決して意識的に無視をしていたわけではない。ただ何となく面白くもない日々を
風が吹く様に生きていただけだ。
2ヶ月ほど前に心凌から中国LINEが入った。
「わたし毎日仕事。お金少ない。また日本に行きたい。」
それだけ。
「元気か?」とか「今はどんな仕事してるの?」などと言うこちらの問いに答える事はなかった。果たしてどのように捉えたら良い物か?さっぱり理解出来なかった。
さて……問題は
いつだったかな最後にLINEした時は
たしかひどい口論になったと記憶している。
構えすぎたらダメだ。
無駄に他人行儀な態度をとると、
きっと彼女は
卑屈な気持ちになるだろうから……
平気なフリして堪えすぎてもダメだ。
私がこんなに悩んでるのに、この人は何事も無かったかのように平然と毎日を生きているのだなー。なんか馬鹿みたい……。
と彼女が悲観的になってしまうだろうから。
「久しぶりだね。どうしたの?」
すごく悩んで悩んだあげく、
結局ふつうに接するのが1番だと結論付ける。
相手の話を良く聞いて、
何がしたいかを理解して、
自分が納得できればその話に賛同して、
自分が納得できなければ断れば良い事だ。
あれ?
なんか今考えていた事って当たり前の事だな。わかっていてもそれが出来ないのだから困ったものだ。
「槙原君から手紙届いてる。」
「そうなんだ。こちらに送ってくれる。」
「送るのは簡単だけれど、やっぱり一度会って話がしたい。ダメかな?」
というか
年賀状だってまともに出さないアイツが手紙をよこすなんてこれも何かの縁というか…。
ちがうな……なんていうんだ?こういうの?
この機会に
余談だが→
恋人との出会いに、
『運命感じた』とか
『出逢うべくして出会った。』とか
『前世から決まってた』
とか言うカップルはだいたい上手くいかないと、どこかで聞いた方がある。
理由は付き合う理由が運命だからだ。
出会った環境が、
偶然が重なった……とか
友達の友達だった……とか
事故した時に助けてくれた……とか
「あの日あの時あの場所で
君に会えなかったら」系
小田和正かよ……。
つまり出会った事に酔いすぎて、
お互いの本当の姿に目を向けなさガチ。
「僕らはいつまでも見知らぬ2人のまま……。」
そりゃそうだけどね。
本編→
とにかくその時僕はこれは偶然ではなくて必然なのではないか?
と感じたのだ。
「いいよ。いつが良い?」
「よかった(^_^)休みの日教えてくれる?」
土日休みじゃないうえに、夜勤優勢の僕のシフトだけれど、難なく日取りを決める事ができた。それで次の夜勤明けの日に会う事になった。
それからお互いの職場の愚痴や、息子たちの学校での出来事など何でもないLINEを小一時間続けた。
残念な事に今回LINEをするキッカケになった槙原の話は一つもしなかった(笑)
それから心凌の事も何となく黙っておいた。何となく……きっと彼女は家事子育てに毎日追われて自分の色恋なんてものは封印しているに決まっているから。
引け目に感じたのだ。
本当は離婚してるから引け目に感じる事もないのにね……。世間体というか、社会的に、というか……客観的にやっぱり堂々とそれを話す気にはならなかった。
彼女と話していたら、昔を思い出してなんだか少し気分が良くなった。
まったく俺って奴は……。
僕は良く物事を忘れる。
子供の頃の宿題に始まって、頼まれた事や、
待ち合わせの時間とか約束事、
引き落とし日に、図書館の本の返却期限。
会社への書類提出……。
いつでも、
「行ってきます!」
と出かけてだいたい5分後には帰ってくる。
母や妻によく
「何回帰ってくるの!!」
なんて怒られたものだ。
良い事も悪いことも……何せ忘れる。
その度に迷惑や他の人に嫌な思いをさせてきた。
けれども一説によれば、
忘れるのも人間の才能らしい。
迷惑な才能だ……。
けれども多くの出来事を忘れる事が出来なかったら、一体どうなってしまうだろうか?
人間の心に残るのは、多くは嫌な出来事だ。
辛い思い
痛い思い
怒られた事
悲しい事
祖母が亡くなった時の事
事故にあった時の事
嫌な事を言われた事
いじめられた事……。
多分それらを何年間も心に残してしまったら、精神が潰れてしまうだろう。
多くの嫌な思い出は変換されたり、
もしくは忘れてしまうのだ。
勘違いしてはいけない。
変換にしても忘れるにしても、
心から消え去るわけでは無い。
時々何かのキッカケで思い出したり、
懐かしんだりするわけだ。
変換も一度忘れてから新たな気持ちに変換される事が多い。
そういえばあの時嫌な思いしたけれど、
今になって思えばあの経験が今の僕を作っているのかもしれない。
……抽象的だけれどきっとそういう気持ち。
つまり嫌な事を忘れるというのは、
ポジティブに変換する為の一種の才能だということだ。
「まぁそれと約束事を忘れる事は必ずしも一緒の事ではないけれどね。」
そう1人で呟いてから約束した日を、
あまり使わないスケジュール帳に書き込み、
スマホのスケジュールにも打ち込んでおいた。
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