第48話 孤独のrun away ●

いつだって先の見通しがつかない。

だから何度だって失敗を繰り返す。

怪我をする。

病気にかかる。

騙される。

何かに巻き込まれる。


何でも興味を持つ。

人懐っこい。

困っている人を放っておけない。

明るくて楽しいことが大好きで、

人の中にいる事がすき。

ポジティブシンキング。


一見良さそうな人間性も裏を返せば……。


 小学生の頃に親が地主でマンション経営の友人がいた。大量のゲームソフトを所有していて、もう一人の友人とファミコンしたさにその子の家に通った。

時々彼の誘いで駄菓子屋に行った。

彼はそこで買ったオヤツを気前良く僕たちに振る舞った。


ある日その彼が僕を呼び出してこう持ちかけた。今まであげたオヤツ代とゲームの使用料を一緒にいた友人から払ってもらおうと。


僕は困ったけど、やっぱりおかしいと思って

「そんな事はきっと無理だよ。」

と言った。


それから何日かして地主の息子とその友人が連れ立って僕のところにきた。


「お前も払えよ。僕は払ったから。」


子供ながらに愕然とした。

僕は友人を責めるどころか自分だけ払っていない事にひどく落ち込んだ。

もちろん親になんて言えなかった。

今思えばこの友人は

(本当は友人とは呼べないけど)

きっとお金なんか払っていない。

おそらく地主の息子にそう言えと言われたのだろう。

誰が悪いのかなんてわからなかった。

ただ大人になった今でも、何故あの時

「嫌だ」と言えなかったのだろうか?

なんであの時、親に相談しなかったのだろうか?と振り返っても仕方ない事を思うのだ。


結局僕はあの時から、

自分と向き合わずに、嫌な事は見ないフリをして、いつまでも現実を受け止める事を先延ばしにしてきたのだ。

それから僕は自分らしさのカケラを忘れて、

ある時まで過ごした。



2日ぶりに目を覚ました時に何故かそんな事を思い出したんだ.幼い頃の記憶は曖昧でいて鮮明だった。(きっと無意識にトイレに行ったりはしていたと思う。まぁそれはそれで夢遊病みたいで怖いが)

もう40代だというのに、

僕の中にはいつまでも自己肯定感が

根付かない。

いつも誰かに遠慮して、

何かが起きるとひょっとして、

僕のせいかも?

と責められやしないかと怯えて……

迷惑かけたらダメだ。

ちゃんとしないと……。

と過ごしていたんだ。


僕の何が悪いのか?

それを考えるきっかけになったのが、

別れた妻だったな……。

なんて思い出したりして


……。

いろいろ思うところはあるけれど、

まぁ何にせよ、いつまでたっても僕の自己肯定感は構築されていかないし、どうしたら築かれるのかもわからずにいた。


顔に痕が少し残ったものの、抗生物質の効果もあってか痛みは少しもなかった。

おそるおそるトイレにも行ったけれど、

どうやら血尿もでていないみたいだ。

少しホッとしたものの、

それからまた沢山の水を飲んだ。

この時健康というものをはじめて意識した。


「もうあまり若くもないしな俺……。」


などと独り言いったりして、

きっと人生の終わり方するのだろうな……なんて呆然と考える。


いつのまにか病気にかかり、

誰も行き来のないアパートで、

人知れず一人で死んでいくのかもしれない。

ニュースでよくあるやつだ。


死ぬ事は怖い。

まだまだ心残りもある。

自分のやりたい事を全うして

悔いのない終わり方をしたい。

でも……

けれども、じゃーいったい……、

僕のやりたい事ってなんだ?

悔いのない終わり方って?

人生を全うして満足する事って、

いったいなんなんだろうか?



いつも人に気ばかり使って、

他人の目ばかりを気にしている僕には

その答えなどわからなかった。



結局僕は誰かに認めてもらいたくて、

ただそれを生きる道標にしてきた。

けれども誰も僕をそのままで良いなんて

認めてはくれなかった。

そりゃそうだ。

だって自分自身が自分の生き方を

そのままで良いと認めてないのだから…。



答えのない問題は解決しない。

ゴールのないレースは終わらない。

走り続けても求める物がなければゴールなんて見えてこない。そこに答えはないのだから。


では答えはどこにあるのか?

ゴールはいったいなんなのか?

それは自分で自分と向き合って、

見つけるしかないのだから。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


それから半年たったある日、

突然現場の異動が決まった。

まさか今さら心凌の事がバレて、

(というほど何もしてないけど)

倫理的問題が生じたのかと思ったが、

そうではなかった。


機械のメンテナンス科に声がかかったのだ。

前職工場勤務で現場のリーダーを任されていたのを評価されたのだ。


評価された。その事が僕の気持ちを高めた。自分を変えるチャンスかもしれないと思った。もう1人で逃げ続けるのはやめにしよう。

「俺はやれば出来る。」

そう自分に言い聞かせて

一歩ずつ前に進む事にした。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る