第41話 ただ……。○
電話を切った後もしばらくの間、
手に力が入り強く握った手のひらは、
赤く色づいて、唇の横がピクピクと痙攣して怒りがおさまらなかった。
しばらく悶々としてそれから冷たいお茶を一気に飲み干した。冷たい飲み物は少しずつ苦手……。胃が痛くなる。
それでようやくcool downして少し落ち着きをとりもどした。
おかしいなわたし……。
そう……私は本当におかしいのだ。
昨日LINEした時には会って話がしたいと思っただけなのに……。
溜め込んだ愚痴や、会っていない間にあった出来事を顔を見ながらゆっくりお話したいと、そう思っていただけなのに……。
どこでくるったのか……。
それも本当はわかっている。
彼が既読のついたLINEに
返事をしなかったからだ。
一日も放っておかれると寂しくて……。
ついイラ立った気持ちががおさえられない。
冷静になって分析するならば、
きっと甘えているのだ。
またやってしまったな……。
もう終わりだ。
修復は不可能だろう。
仕方がないじゃないか、
彼だけが悪いわけではないけれど、
私だって最初から怒るつもりはなかったのだから、彼さえ最初の既読がついて、すぐに返信してくれたら、こんな事にはならなかったのだから。
それから私は彼の怒りを
ラ行だ……。
ラ行が私をさらに苛立たせる。
「うるぅせーなー」
とか
「やめろぉーって言ってんだろぅー」
とか……。
まるで人扱いされてないみたい。
ガラの悪いヤンキー、チンピラ、ヤクザ、
の部類にしか感じられなくなるから。
そもそも離婚した時点で修復も何もあったもんではないけれど。
テーブルに伏せってしばらく落ち込む。
それからジンワリと目に熱いものを感じた。
腕に暖かい雫が
声を殺して子供にも母にも気付かれないように、オレンジ色の電球の光の下で小さく
なんで私はこんなに上手に自分の気持ちを伝えられないのだろうか?
自分の感情が深ければ深いほど、
理解されない事にもがき苦しめられる。
優しくされたい時ほど、
素直になれなくて、
抱きしめてほしい時に
毒を吐き続ける。
ただ……
「君はそのままでいいんだよ」
とそれだけ言われたい。
「君は間違ってないよ。」
と背中を押してほしい。
私の事をわかってほしい。
私の事を認めてほしい。
私の事を必要としてほしい。
私は頑張っていると……。
ただ……
たったそれだけの事を……
私という存在が生きていてもいいことを認めてほしいだけなのだ。
存在価値……
生きている意味……
必要とされたい……
必要とされたい……
本当にただそれだけの事なのに、
優しくしてくれる彼には
素直にそれが言えないのだ。
優しくしてくれる人だからこそ、
冷たくされた時の傷は
深いのだろう。
いったい誰がこんな私を受け止めてくれるというのだろうか?
そのままなんとなく手持ち無沙汰でYahooのニュースを開いて見る。
『女優の鈴木〇〇が不倫デート』
こんなに綺麗な顔に生まれたらどんなに良かっただろうか?
綺麗なのになんで人の物に手をだすのだろうか?
そういう
自分のスッピン画像をインスタとかに
あげてる。独り身でお金があればいくらでも綺麗にできる。
エステ、
高級化粧品、
スキンケア、
アンチエイジング
いくらでも男の人が寄ってきそうなのに。
だいたい40過ぎて結婚しないなんて、
よほど自分に自信があるか、
よほど相手に求めるものが多いか、
それともやはり一人が気楽でいいのか?
どちらにしても腹立たしい。
一人の人生なんてお気楽すぎるし、
自分大好きで、あざとすぎる。
私だって一人になりたい。
………。
怒ったり落ち込んだり……
いつもに増して感情の起伏が激しい。
本当に毎月毎月この時期だけはそういう自分に疲れてしまう。
LINE
「明日って仕事終わりにご飯に行けるかな?」
宮本からのLINE……。
彼は私を必要としているのだろうか?
「明日は大丈夫ですよ。」
母に確認もせずに
勝手に決めてしまった。
「お寿司の美味しい飲み屋さんがあるのだけど、一緒にどうかな?」
彼は私を必要としているだろうか?
必要ない人をご飯には誘わないか。
「つぅっ…。」
お腹が痛いな。
まぁご飯くらいなら大丈夫か。
「いいですよ。わたしお酒は呑めないけれど、お寿司大好きです。(ニコニコマーク)」
「よかった!会社から二駅ほど電車のるけれど本当にお寿司が美味しいんだよ。」
「(お寿司のスタンプ)」
を送信した。
浮気?
不倫?
私が?
必要?
様々な二文字が頭をかけめぐる。
それで大きく深呼吸をする。
いいじゃないか時には、
今まで散々真面目に生きてきたじゃないか。
求められるという事が
今の私には一番必要で、
必要とされるという事が
私の心を安定させる。
人の事なんてどうでも良い。
「じゃー明日ね。」
「はい。また明日楽しみにしています!」
皆既日食のように
私の中の黒い月が今まで照らし続けていた
真っ直ぐな日の光を遮っていく。
仕方がない。
私はただ愛されたいだけなのだから。
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