第40話 やっぱり無理だな ●
「少し話がしたいです。今度1日だけ時間作ってほしいです。」
と昨晩元妻からLINEが入った。
嫌な予感しかしなかった。
仕事に行く直前だったという事もあって
(というのは自分に対しての言い訳だが)
返信はしなかった。
正直言って直前のLINEの学級委員の話しの続きだと思って、思わず開いてしまったのだ。
おそらく既読はついてしまっただろうな。
離婚して、少し距離を持ってやりとりをしているからだろう。離婚直後の彼女に対する怒りや嫌悪感は無かった。
素直に愚痴を受け止められるし、
子供の事を相談されるのは頼られている気分になってそれはそれで嫌ではなかった。
けれども復縁は絶対ダメだ。
僕は心にそう決め込んでいた。
それはやはり今までも別居しては元に戻り、
何度も何度も失敗を繰り返してきたからだ。
その成れの果てが離婚という結果だったのだから……。
自分たちよりも迷惑なのは周りの人たちだ。彼女の母親、自分の父親、それに一番可哀想なのはやはり子供たちだ……。
また同じ失敗を繰り返してならないのだ。
それから……
心凌の事もあるし……。
一晩?というか、夜勤の明けた夕方に返信をした。
LINE
「返信遅くなりました。何かあったのですか?」
しばらく既読はつかなかったので、
一度あきらめてTVをつけた。
それから今晩は仕事も休みだから、
味のついてないプレーンの缶酎ハイのプルトップをピシャリと開けてグラスに注いだ。
そこにそれ用に買っておいた梅干しをグラスに入れて行儀悪くお箸で……
おっと!!危ないあぶない。
この若狭塗のお箸は大事にしているのだ。
流石にそれはやめておこう……。
慌てて台所まで行って百均で買った普段使いの箸で潰して混ぜる……。
喉を鳴らして唾を飲み込む。
暑い日にはビールもいいが
これが一番うまい。
頃合いよく混ぜ上がったので、
啜ろうとし口を近づけたところで、
スマホが光を放った。
「お疲れ様。今晩もお仕事ですか?」
うーん。
何を言われるのかと思うと、気が気じゃなかった。それでやっぱり一息ついてグラスに入ったピンク色の液体を啜った。
なんだか味が良くわからない。
いつもはゆっくり味わうけれど、
グラス一杯一気に飲み干した。
「いや、今日はお休みです。あなたは大丈夫ですか?」
間なしで既読そして返信。
「大丈夫なわけがないです。」
「なにかあったのですか……」と送ろうとしたところで
「私には荷が重すぎます。」
とりあえず先程の文面を一度消して、
うーんなんて返信したらよいだろうか?
「僕に出来る事があれ……」
と、書きかけたところで、
「あなたは独り身、なんで私だけがこんなに辛い目に合わなければならないの?」
なんだかなー。
別れる時に、
「あなたなんかに任せたらどんな子供に育つかわからない。それに兄弟離れ離れにしたら
可哀想!」とか言ってたのは自分ではないか。
「一人引き取ってほしい。」
ほらそうきた。
引き取る事が嫌では無い。
でも彼女の矛盾は納得いかないし、
それに実際に無理だ。
もう返事する事をあきらめて、
通話ボタンを押した。
軽快な音楽が鳴り始めて、
ワンコールかかるかかからないかのうちに彼女は電話口にでた。
「はい。」
少し不貞腐れた感じ。
こんな時はこちらが感情的になるとダメだ。
「気持ちはわかるけれど。」
「わかるわけがない。」
「……そう。じゃあわからないのかも知れないけれど現実的に無理だよ。」
こんな夜勤ばかりの仕事で子供を放ったらかしに出来る訳がなく……。
会社がその理由を聞き入れるわけでもなく、
それを誰かが手伝ってくれるわけでもない。
社会はひとり親に対して寛容なようで、
何もわかっちゃいない。
「あなたが無理な事を私一人にはさせるつもり!!」
「いやそうじゃなくて……。」
「いつだってあなたは、僕には無理、僕は苦手だからとか、言って私に押し付けるじゃない!!」
「でももし僕が一人引き取ったら今までと同じように仕事は出来ないし、同じだけの仕送りは出来ない。だから……。」
「そうやってお金で解決するつもり!!」
あー……。
ダメだコリャ。
理性が収まらなくなってきた。
「は?!どういう事?自分であれこれ決めて、双方納得して離婚したんじゃないのか?それを自分に無理が出てきたからって八つ当たりするな!!」
酒の勢いもあったかもしれない。
怒り口調に一度なると自分でもとめるのは難しい。
この百済ない口論をしばらく続けて電話を、きった。
結局……「復縁はダメだ。」
とか結論つけていたけれど悩む事なんてなかった。この人とはダメじゃなくて無理だ。
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