第37話 ちょうどいい関係 ○

「左腕を強打されてますが、レントゲンを見る限りは折れている感じはないです。けれど本人が痛がっているし、目に見えないヒビが入ってるかもしれません。それから頭を打っているので一応今日は入院して様子みましょうか。」


「はい。ありがとうございました。」


そのままベットに寝かされた息子の打ってない方の右手を握って


「もう。心配ばかりさせて……。」


と言ってもう片方の手を使ってハンカチで涙を拭った。

息子が無事で良かったと思う反面また、

なんで私ばかりが……

という感情が強くて込み上げてきた。

それで一言いってやらないと気が済まなくなってきた。


LINE

○『今日次男が腕を強打して病院へ連れてきました。頭も少し打ってるようです。』


タイミングが良かったのか

(彼にとっては悪かったかもしれないが。)

すぐに既読がついた。


●『大丈夫ですか?本人の意識はありますか?』


○『大丈夫骨折もないみたい。頭を打っているのでとりあえず今日は入院します。』


●『行ってあげたい気持ちはありますが、

今日は夜勤なので難しいです。」


○『別に来なくていいです。それよりこの子はあなたに似て本当に落ち着きがなくて困ってます。どうして私ばかり振り回されなければならないの?』


●『そうだね。出来る事はするけれど、僕に出来る事はほとんどないでしょう。でも話しくらいはいつでも聞くよ。』


不満に近い愚痴のLINEはで済む訳がなく結局30分ほどやりとりを続けた。

それを文句も言わずにただ聞いてくれた…。

言うだけ(書くだけか…。)言うと少し

スッキリした。なんだかんだ言いながらも彼は私の話を聞き入れる人だ。

そういう優しいところが良かったのかもしれない……なんてもう終わった事を言っても仕方がない。


○『今度一度ご飯でも行く?』


●『いや、やめとく。』


そこはアッサリ断るか。

やめればいいのにわたしもバカだな。


○『冗談よ。まぁあなたもドジなところあるから十分気をつけてね。あなたが倒れたら金銭的に無理だしね。頼みます。』


●『わかりました。』


最後はつい憎まれ口をたたいてしまう。

やめればいいのに……本当に。


病室にもどると次男はすっかり眠っていた。

痛いやら怖いやら怒られるやら……

いろんな不安で心も体も疲れたのだろう。

眠っている時は可愛らしい顔しているのにね……。


あれ……?

元旦那とのやりとりが終わったと思ったら

今度は宮本からLINEが入った。

なんだか忙しい日だ。


『大丈夫でしたか息子さん?』


『はい。大丈夫です。骨折もないみたいですが、頭を打っているのでとりあえず今日は入院します。』


『そうですか。良かったです。』


しばらく待ってみたがそれ以上の返信はなかった。まぁ建前的たてまえてきな感じかな……。

結局それだけのことか……。


『今日はすいませんでし……』いや、こんなLINEを奥さんに見られたら誤解されるかもしれない……。そう思ってそれ以上の事を送るのをやめた。彼には彼の生活があるのだ。

仕方がない。

でもなんか……。



なんか冷たいような……

寂しいような……

子供が怪我をしたというのに、

本当はもっと親身に聞いてもらいたい。

むしろ聞いてほしい。

でもそれは叶わない事。

彼には奥さんがいて、

私はまだただの仕事場のちょっと気になる異性。(いや、まだって……。)

今日2人でご飯を食べに行っただけでも……。うーんこれは浮気?不倫なのか?


複雑な心境だな…。

想われたいし愛されたい。

けれども……

その想いを自分の中で認めてしまったら、

やはりそれは人としてやってはいけない

一線を超えてしまうという事を認める事になるだろう。

いっその事…

なんの想いも寄せてない奥さんなんかと別れてしまえばいいのに……。

などと思い浮かべて首を横に何度もふる。

危ない考えだな。

それにそれでは子供さんが可哀想か……。


ん……?

突如自分の頭の中に冷たい風が吹く。

あつくなってるな私。


「ふふふふっ。」


急に笑いが込み上げてきた。

まったく私ったら……

いったい何を考えているのだ。

すっかりその気になって自分勝手な妄想を繰り広げているけれど、

そもそも私には三人の息子たちがいるではないか……。

彼がどれだけ私を想ってくれていたとしても

(その考えさえ図々しいか……。)

3人の男の子を持つ女と再婚なんてありえない。


……そうありえないよ。


きっと……。


だからきっと私はやっぱり1人だ。

はそれだけだ。



わたしのすべてを満たす事はきっと出来ない

きっとそれを満たすには

沢山の物を捨てなければならない。

常識的とか

世間体とか

人間味とか

プライドとか

親である事とか……。

感情を優先して全てを満たす事が

やはり私には幸せとは思えないのだ。


そう思えば時々ご飯を食べに行って

お話してデート気分を味わうくらいがちょうどいいのかもしれない。


それくらいいいよね。

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