第34話 2人の距離感 ●

「あなた、次のやすみいつ?」


と中国LINEが入った。

あれから何度かご飯に誘った。

もちろん毎回車を借りるほどお金があるわけでもなく、食事だって焼肉……というのも無理があった。王将とかマクドナルドとかそんなレベルの食事だ。時々ラーメン屋さんに、行くのが関の山。彼女はお金をださないと決め込んでいたわけではないが、僕が彼女がお金を出すのをいつも強引に遮った。


誘うのも提案するのも僕。

まぁ企画力が乏しいなりに精一杯の計画を立てた。休みさえ合えば彼女が断る事は一度もなかった。


そんな心凌が僕の休みを聞いてきたのだ。


「んー30日が休み。」


「OK^_^ 私はこれに行きたい。」


そういって一枚の写真を送ってきた。



『29日 30日 水神祭り』


なるほどそれか。

地元の神社のお祭り。

毎年六月の終わり頃にある七夕祭りの一つで、短冊に願いを書いて笹の木に祭る。

この神社は水の女神様を祀ってある。

名水と言われる清らかな水がこの神社の

ご神木の根本から流れていて、

その水を使って作る御神酒は絶品だ……。

いやいやそんな話じゃなくて……。


小さな町だけれど、

この日だけはどこからともなく

人が集まってくる。

昔は祭りの日に合わせて

沢山の蛍を町ぐるみで放っていたが、

(おそらくきれいな水のアピールの為だ)

いつからか予算の都合なのかその計画はなくなった。


「祭りか?心凌は休み?」


「いいえ。私はその日の朝まで仕事です。でもヨル仕事はやすみ。」


「夕方から一緒にいくか?」


「はい。いきたいです。」



駅に16時に待ち合わせする事にした。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

その日は朝から天気に恵まれた。

6月も終わりだ。

この間海に行った時より

季節がグッと夏に近づいた。


駅前まで自転車で30分ほど。

近くまで行くと自転車で進む事は難しいくらい、人が溢れていたので降りて押して歩いた。それから近くのスーパーでどうにかこうにか、自転車と自転車の間に自転車をねじ込んで、そこから神社までは歩いた。

待ち合わせは16時だったけれど早めに家を出たので時間はまだ15時にもなっていなかった。


すでにお祭りムードの街並みで彩豊かな露店がところどころに出ていた。

そこでビールを……と思ったけれど一杯500円に躊躇して結局スーパーまで戻って安い発泡酒を買い、せめて雰囲気を楽しむ為に、露店で唐揚げとポテトの入ったカップを500円で購入した。昼から飲むビールはなんとなく罪悪感の中の幸せを感じるのはなぜだろうか?


この小さな町にいったいどこから人が湧いてくるのだろうか?

行き交うは人たちは男も女もその祭りの空気感を楽しんでいる。思いおもいに白や紺色や夏らしい模様のついた浴衣を着て、手にはウチワを持って自らを仰ぐ。(今だったら扇風機持ってるかもな)

それを神社の橋桁に寄りかかりながら、ビールを片手に眺めている。

それだけで楽しい気持ちになるのだ。

そろそろ駅前に戻らなければ……。

と腕時計に目をやり再び神社から駅に向かって歩いた。



けれども16時を過ぎても心凌は現れなかった。いろいろな不安がよぎぎる


時間間違えた?


そう思いスマホを確認する。


いや間違えてない。

からかわれたのかな俺?

ひょっとして……。

中国は午後の時間を13時とか14時とかいわない、だから6時(18時)と間違えたんだろうか?

とにかく一度中国LINEをいれてみる?


「心凌、時間大丈夫か?」


けれども10分待っても20分待っても返事は来なかった。

うーん……。

仕方がない。あと少し待って来なかったら、もう一度中国LINEいれて帰ろう。

結局1時間待ってあきらめる事にした。


「もしかして寝てるのかな?また今度会いましょう。」


当然ながら彼女が日本にいる間にもう祭りはない。少し残念だけど仕方がない。

そう思い帰りかけたときだった。


視線の先の方に心凌らしき人が自転車に乗って向かってきているのが見えた。

乱視混じりの近視の目をこらしてよく見ると、やはり心凌だった。けれども心なしかふらついている。

そのまま近づいて声をかける。


「大丈夫か?」


うぉ……。ワタシさきまで仕事……。」


「え?心凌今日は夜から朝の9時まで仕事じゃないの?」


「そう。でも今天じんてんはみんなオマツリあるから、しごとこない。ヒトいないと主任は言います。」


「はー」


「それで、あと1時間、あと1時間……と主任は言いました。」


うぉ明天みんてん休みだから、

みんな帰るけど、ワタシ……。」


つまり夜中の12時から今日の夕方16時まで働かせたと……。なんてBLACKな……。わかってはいたけど酷すぎる。


「わかった。わかったよ。」


一緒懸命説明する心凌の肩を撫でて、近くのベンチを探して座らせた。

自転車はそこに横付けした。


「ごめんなさい。またせてしまて。」


僕は黙って肩を抱いて、彼女の頭を自分に

もたれれさせた。


「少し眠りなよ。」


心凌はコクリと頷いた。

よほど疲れたからなのか、それとも辛くて涙が出たのか?瞼の間から一筋の雫を流して、

しばらくすると、

僕の肩でそのまま寝息を立てて眠りについた。


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