第23話 何を求めているか? ●
「
こんにちわ
「
ありがとう
「
どういたしまして。
「これか?あーこれだ!!
仕事上どうしても中国語を知らないと困るなぁ……と思い本屋さんにきて中国語の本を探した。
……というのは表向きの話で実際仕事をするのに中国語なんて必要なかった。
何故なら彼女たちは(もちろん男の子もいる)日本に来る前にある程度日本語の授業を受けてくる。それから来日後も日本語を勉強する。つまり必要な日本語はある程度知っているのだ。
もちろん得意な人と苦手な人といる。
苦手な人間はいつまでたってもほとんど日本語を話さない。
「オハヨウゴザイマス」
「アリガトウゴザイマス」
「オツカレサマデス」
それだけ。
あとは得意な人についてまわって、自分の伝えたい事を言ってもらう、もしくは聞き出す。
その他に監査役の日本語が話せる中国人がいて、どうしようもない時は彼に電話する。
それに現場に留学生の孫君もいるし、
他の現場には中国語が話せる社員も一応いる。
じゃーなんで中国語の本を手にしたか?
それはやっぱり心凌と話したかったからだ。
中国語ってやつはなかなか難題で、文字が読めるだけではだめ。
発音が非常に難しい。
「うーうーうーうーうーうーうー。」
なんのこっちゃわからない。
文字にしたら漢字でも
耳で聞いてみたらまるで英語だ。
文法も英語と似たりよったり。
本を買って帰ってきて一時間ほど格闘したけれども……。
「あー無理無理!!」
そう一人で口に出して呟いた。
そのまま畳の部屋で寝転がった。
そして両手を上げて伸びをした。
目線の先の古びた天井には、いたるところに
シミやら木の模様やらが点在していた。
その中の一つがまるで顔に見えてきた。
『ムンクの叫び』のようなその模様は不気味に笑いかけてきた気がした……。
『このまま中国語が話せたとしてお前はいったい何がしたいんだ?寂しいから抱きたいのか?まさか結婚したい?なんて言わないよなー……。女はもういらないと言っていたのに、しかも日本人じゃないんだぞ!!」
『わからないよ。俺にだってわからないんだほんとうに……。
さみしい?うーん……
そうだな……。
さみしいよ。
でも抱きたいなんて思っていない。
それに結婚なんて、本当にもう必要ない。』
『それじゃーお前は何を求めてるだ?』
『何を?……。
そうだな……。
俺は何を求めているんだろうか……?
ただ……
ただお話がしたいんだ。』
『はっ?お話!!』
シミのクセに鼻で笑いやがった。
ような気がした……。
『いい歳して高校生の恋愛ごっこかよ。」
『……うん。そうだな……。本当にそうだ。
いつだって自分に自信がないから、
相手を気遣っているみたいなフリをして、
必要以上に気を使っている。
もはや相手に必要以上に気を使いながら関わるという事は自分らしさなど無いに等しい。
気遣いと気を使うのは似て非なるものだからね
自分を押し殺して生きていくのは本当に疲れるんだ。
同じ立場で同じ視線で気を使わずに話がしたい。きっとそれが僕が彼女に求める事だ。』
「なんだそりゃ?!」
あっ……。
いつの間にか眠っていたようだ。
しかしいったい誰と話ているんだ俺は。
そう言って夢じゃない方の天井のムンクに話しかけた。
まったく……。
なんて夢だよ……。
しばらく ぼーっ として、
「けどさ……対等でいるという事はきっと自分を強く持たないと出来ないんだよ。
自分のないやつは、いつも人の顔色を気にして生きなければならないのだから。
それはこれまでも、これからも、元妻に対してだってこれから出会う誰かに対してだって一緒じゃないか……。」
そう誰に言うでもなく口に出して言ってみた。
それから便箋とボールペンを取り出して中国語の文書を書いてみた。
下次一起去吃饭吗?
今度一緒にご飯を食べに行きませんか?
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