第21話 自らの選択と自尊心 ●
相当悩んだ末に……
軽薄な言葉をLINEで投げかける事にした。
本当はとても心配だったし、
もっと優しい言葉をかけてあげたかった。
けれどもう同じ過ちは犯したくない。
何度も何度も付いては離れ……
子供の前で罵声を浴びせあい……
醜態を曝け出し……。
彼女との良好的な関係を築ける気がしない。いやむしろ気がしないのではなくて、
良好な関係が築けないのは明白だった。
いつからだろうか?
こんなに距離が開いてしまったのは…。
いつからだろうか?
こんなに空虚な気持ちになったのは……。
結婚した時の事が急に頭に思い浮かぶ。
結婚式の前に衣装合わせに何度も行った。
何度も何度も足を運んで納得のいくまで
どのドレスにするかを悩んだ。
男なんて簡単な物だ。
選択肢も少ないし、
「まぁだいたいこんなももん。」
で十分決まる。だから後は彼女のドレスが気にいるのを待つだけだった。
待つという事はひどく疲れるもので、
「もうそれでいいんじゃないの?」
なんてつい嫌味みたいな事言ってしまう。
けれど実際彼女が最後に選んだ
ウエディングドレスはとても似合っていた。
当日はきれいにメイクまでしてもらって。
すごくきれいだなーと本当に思った。
彼女は緊張しすぎて散々悩んで決めた結婚式の料理を何も食べられなかった、なのに僕は横でムシャムシャと食べてシャンパンを飲んでいたんだ。
それを見て怒っていたのも愛おしく思ったものだ……。
「はぁー。」
と冷たいLINEを送った事に罪悪感を覚えて
ため息がもれる。
もはや「しんりー」に返信をする気などおきなかった。残りの酎ハイを
ケンカをしては仲直りして……。いつだって僕らのケンカはどちらかが特別に悪いという事なんてなかった……。
彼女が不満を吐露し、
僕がそれを受け入れられず反発して……。
それがまた彼女には納得がいかなくて……。
結局二人とも自分の事を認めてほしい……
というか、自分の事をわかってほしい、
そして受け入れて欲しいが故に、
相手に求めすぎてしまうのだと思う。
実際僕はあれだけ彼女に
だからその彼女に認めてもらいたかったし、
本当は受け入れられたかったのだ。
「安い酒だなー。本当に不味い。」
そう一人で呟いてその日はそのままおそらく眠りについた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「よしライン動かすよー!」
と主任の号令がかかる。
「山田さん前から容器を流して!!
田中さんここでこれを乗せて、ジェシカ、クリームトッピングして……。」
適材適所を見極めて人を配置する。
「
と圧倒的に多い中国語が飛び交う。
「ストープ!!ちょとまて!」
英語もブラジル語もいろいろとあーだこーだいいながらようやくラインが軌道にのる。」
「ふぅー。」
と、ため息を一つついて時計を見て終了時間を自分ざっと見積る。
次の配送まで余裕で間に合いそうだ。
トラブルさえなければ……。
「よっしゃ。今日は順調にまわってるねー。少し早いけど休憩まわそうか?なんだったらちょい長めに行ってきてー!」
「はい!」
順調な滑り出しに主任も上機嫌だ。
そのまま衛生管理室をでて、2階の休憩室へと向かう。
奥の喫煙ルームへと向かおうとすると。
「おにいさん!」
と呼び止められた。
「ん?」
気がつくと後ろにシンリーが立っていた。
「わたしのちゅうごくのラインあなたのでんわにあったか?」
「んー……?あーあったあった!」
すっかり返信するのを忘れていた。
「よかった……。おにいさんはぎょうざたべますか?」
「うん?食べますよー。」
なんかこちらまで少しおかしな日本語になる。
「これあげます。」
使い捨ての透明のパックに餃子が入っていた。
「ん?餃子くれるの?」
「これきのうみんなでつくた。」
にっこりと微笑んでそう言った。
……そしたらやっぱりドキっとした。
「えーとなんだその…しぇしぇ……謝謝?」
「はっはっ(笑)
え?いったいなんて言ったんだ?
でも悪い事は言ってなさそうだから、
笑って誤魔化した。
俺って本当に厳禁な奴だな。
あれだけ元妻の事でセンチメンタルになっていたのに、帰って餃子にありつけるのが待ち遠しくなった。まぁ当然餃子が大好物なわけではない。シンリーがくれた事で気分が高揚したのだ。
いつだって人の顔色伺って生きてきた。
だから自分らしく生きよう。
せっかく離婚したんだ。
いつまでもくよくよしていたって仕方がないじゃないか。
浮気じゃないし、
ましてや不倫じゃない。
気持ちを「きりかえる」よいきっかけかもしれない。
「俺は間違ってない。」
そう自分に言い聞かせて自尊心を高めた。
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