第19話 明と暗 ●
買い物から帰ると荷物を床に置いて、
シャワーがないので湯を沸かすしかない。
丸い穴まで水を張ってタイマーをかける。
昔ながらの浴槽だ。何年何年も使われたその青い(本当は何色なのかすらわからないが)浴槽はところどころ落ちなくなった水垢で変色していて、およそ衛生的とはいえなかった。
そのまま買ってきた食材を冷蔵庫にしまっていく。
それからまな板で豆腐を切ってキムチをのせる。切り干し大根を水で戻しておく。
それは後でゆがいてよく水を切りポン酢につける。これは何日か保存がきく。
あとは胸肉を酒で蒸して、玉ねぎはスライスして醤油につけておく。
結局酒のつまみばかりだ。
沢山作ったので今日はポテトはやめておく。
疲れたし先に缶チューハイに手をかけたいところだが、酒を飲んで風呂に入るのは危険だ。そう思い我慢する。
いやしかし、なんか可愛いかったな……。
と真剣な顔でアイスを選んでいた王心凌の顔をふと思いだす。それで一人で「ぷっ」と吹き出す。
スマホを見ると通知が一件。
中国LINEが入っている。
しんりーと平仮名で書かれているのが、王心凌だと本人が言っていた。
「今日はありがとうございました。餃子おいしい。
と書かれていた。
日本語に変換してるのかな?
とか思いながら思わずにやけた。
それからみんなで料理を囲む写真が送られてきた。
楽しそうだなー。
でもこんな中に一人男で日本人の僕がいったらうくだろうなー。なんて考えてやっぱり笑えた。
きっとさみしいんだな俺……。
とか思いながら、なんて返信をするのか楽しみながら悩んでる。いやとりあえず風呂に入る事にしよう。
熱い湯船に水を足して適温を探る。
この物件を内見しにきた時まさかシャワーがないなんて思いもしなかった。
だから最初から確認もしなかった。
引越してきたその日に愕然とした。
けれどやっぱり湯船はよい。
1日の疲れがとれるようだ。
家族で暮らしていた頃は長湯なんてできなかった。だって一人30分も風呂に入っていたら2時間半も風呂にかかる。
まぁそんなこと言う程、もとから長風呂なんてしないけど。せいぜい15分くらい…。
風呂から上がって部屋着をきて、
念願の酎ハイに手をかける。
「ふー!!」
一気に三分の一ほど流し入れた。
それでスマホを触ると
LINEが入っていた。
中国じゃない方の……。
元妻からだった。
酔いで気持ちがよくなる筈が
一気に冷静な気分になった。
湯に浸かって得た心地よさは、
もう過去の物となった。
先程までの明るいきもちが、
容赦無く暗いきもちにさせた。
もう離婚したというのに、
いったいなんだというのだ?
まだ文句が言い足りないのか?
それとも俺が何かやらかしたのだろうか?
いずれにしても良い知らせでは無い事は間違いない。
「はぁー。」
ため息ばかりひらく気がおきない。
かといって放っておく事はできない。
意を決してLINEをひらく。
お元気ですか?
私は体調をくずしています。
内臓に水が溜まっているみたいで、
場合によっては手術が必要だそうです。
あなたはいかがお過ごしです?
……「はぁー。」
僕は恐れた……。
また心配して彼女に電話して……。
また彼女の元へ向かって……。
また話を聞いて同情して……。
また中途半端に距離を縮めて……。
また同じ過ちを犯してしまうのか……?!
それだけは何としても避けなければならない。
そう思って僕は自分の明確な答えを導き出す為に、しばらく悩んで近くメモ帳に思いを書き連ねた
そして酎ハイの残りを流し込み、
キムチ豆腐をパクパクっと食べて。
まずは妻の方から返信を送る事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます