第15話 はずれたチェーン ●

離婚して初めての休み……。

休みの日は特別にやることがなかった。

けれど僕にとっては予定がないというのは非常に快適だった。

何故ならば僕は物事を計画的に行う事を非常に苦手とするからだ。

夏休みの宿題とか最後に焦って終わらすタイプだ。

思った時に思った事を思いついたままにする。それが今までの僕の生き方だった。


まぁそれで沢山の失敗をして来たのも事実だ。


とりあえず今日は次の休みまでの食材を買い出しにいかないといけない。お金が沢山あるわけでもないし、毎日弁当を買うわけにもいかない。


お金のやりくりも昔から苦手だ。

あればあるだけ使ってしまう。

これも結局のところ計画性の無さに他ならない。自分でも本当に嫌になる性格だ……。



しかし今回の離婚の件は僕も決意が固く、

その小さなプライドをともなった意思を強く保つ為に、何がなくともはやめてはいけないと心に誓っていた。


それに僕だって子供たちがどうでもいいわけではない。息子たちの前で

「お父さんみたいになったらダメだよ。」

と妻になじられるのが何よりも不満だったし、それにとても傷ついた。


僕だって良いお父さんでいたかったし、

良い旦那さんでいたかったのだ。

だからいつもいつも気を張っていた。

休みの日は妻が休めるように、

できるだけ家事を手伝った。


けれどもそれすら彼女には不快だったみたいだ。ケンカになると彼女は決まってこう言った。


「女が家事をするっていったい誰が決めたわけ?どうせ『手伝ってやってるだ!!』とか思っているんでしょう?ちょっと料理したからってイクメン気取りはやめてよ!!」


こちらだって感謝してほしくてやってるわけじゃない。でもやるのが当たり前とかいうのも納得いかない。いつもそうして終わりのない詰り合いが始まるのだ。

結局いつも僕が彼女の為にやっていた手伝いは、チェーンのはずれた自転車をこぐように空回りし続けていたのだ。



そう言ってみれば今僕の前を走っていた、

前方にいる女性の自転車のように……。


あらら……。

自転車のチェーンが外れて困っているようだ。それが自分には手の出せないような事なら、見て見ぬふりをして通り過ぎる事もできた……。

でも自転車のチェーンが外れて直すことなんて、しょっちゅうボロい自転車を乗っていた僕にとっては容易な事だった。


「良かったらみましょうか?」


一瞬ビクッと体を振るわせながら、こちらを振り向いた。


「あの……、わたし…ニホンゴはすこしだけです。」


あらら……中国人かよ。


「あの……自転車修理…しましょうか?」

なんかこちらまで辿々たどたどしい日本語になってしまう。ってあれ?このはもしかして……。


「王心凌か?」


「ん?あークリームのおにいさーん!!」



普段職場では目しか見えないから私服も素顔もお互い知らない。けれど先日のクリーム探しの一件でやりとりしたからこそ、なんとなく雰囲気で王心凌だとわかったし、彼女もきっと僕だとわかったのかもしれない。


手際よく彼女のチェーンをギアに戻してあげるととても喜んだ。


「おにーさんありがとうございます。」


「別にいいよ。良かったね。」


「おにーさんやすみか?」


「うん。今日は休み。あなたは?休みか?」


「はい。うぉやすみ。あなたはちかくのアールシュウスースーパーしってますか?」


「あーるしゅーすースーパー?」

一瞬なんのことかと考えたがわからず、


「しらない。」

と答えた。


するとしばらく考えて指を使って身振り手振りで、左手でピース、それから右手の親指だけ曲げて……。


「すーぱー」

とだけ言った。

2と4とスーパー……。


「あー……!!知ってる。」


ちょうど今から行くスーパーが24時間営業なのを思い出した。


「私は今からそこに行く。あなたも一緒に行くか?」


「はい!!」


なんだかおかしな事になってしまったが、

王心凌と一緒に買い物へ行く事になった。

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