第13話 ひとりっていうのは ●
「ちょっと社員さん!また中国人がミカン食べてるよ!」
「おにいさん!わたしこのおばさんムリ!」
「ストーップ!!ムリムリワタシデキナイヨー」
「もういいし、ライン早くまわせよ!!」
製造スタート同時にケンカと怒声がはじまる。食品工場の衛生面のルールはそれなりに厳しい。コロナ禍になるまえから、マスクは厳重手袋は2枚使い、頭にはシャンプーハットのような形の、ネット状のもを被りその上に頭巾を羽織る。目以外は何も見えない。
それでも中国人の研修生は目を盗んで瞬時にマスクはずして製品を食べる。
持ち帰らないよう制服にはポケットがついてないが、服の袖に隠す。エプロンに巻く。
まぁいろいろだ。
「社員さん向こうでクリシュナが怒っているよ?」
「また喧嘩か?」
ネパール人の男の子と中国人の男がやり合ってる。
顔が見えなくても喧嘩はする。
合う合わないがいろいろとあるのだ。
「孫くん呼んできて!」
孫は中国人の留学生の男の子。
間に入って何が起きたかを通訳してもらう。そんな事はもう日常茶飯事だ。
「はぁー」
ため息しかでない……。
「おにいさん、これなにか?」
ん?
気がつくと後ろに女の研修生が僕の袖を引っばって声をかけてきた。
トッピングに移ってまだ数日しかたっていないので名前はまだ覚えていない。
なのでその娘の腕のネームプレートを見た。
この食品工場は安全ピンでとめるような
名札は、異物混入につながるのでない。
その代わり腕にネームが入っている。
『
「あー新しいクリームだよ。」
「そうか。これはちがうか?」
と製造指示書をみせてくる。
「うん。違う。」
数多くの商品を作っているので、
植物性の生クリーム、
動物性の生クリーム、
いろんな種類のクリームが存在する。
どのクリームを使うのかは指示書という、
レシピを見て判断する。
それを日本語を覚えたての中国人の研修生に
判断させるのは
「どのクリーム使うの?見せて!」
と彼女の持つ指示書を取り上げて見てみる。
「あー、こっちへおいで。」
大きな冷蔵庫の部屋に連れていく。
「おにいさん。わたしそこみた。でもそこにクリームない。」
ちなみに研修生はみんな男の社員を
「おにいさん」と、呼び
女の社員を「おねえさん」と呼ぶ。
役職のある社員は役職で呼ぶ。
「しゅにーん、」とか、
「かかりちょー、」とかそう呼ぶ。
んー使おうとしてるクリームが本当に無い。
資材の部屋の冷蔵庫かな……?
「わかった。俺が持ってくるわ。だから待ってて。」
「はい。」
「主任!!ちょっとクリーム取ってきます。」
「はいよ!よろしく。」
洋菓子の部屋の冷蔵庫だけで5箇所。
その他に資材の冷蔵庫というのがある。
冷蔵庫といっても10畳程あって自動ドアだ。サスペンスとかで、閉じ込められたら死ぬやつだ。
迷路のような工場を把握するのには少し時間が必要かかった。最初はどこにいるかわからなくなったものだ。
資材庫の中からクリームを探し出して現場に戻り王さんを探した。
「王さん」
振り向かない。中国人の名字は同じ物が多い。王、張、李、孫、
だからフルネームで、呼ばないと自分の事だと思わない。ましてやさんづけしたらなおさら気が付かない。
「王心凌!!」
「はい?!」
「クリーム。はい。」
「謝謝。ありがとうございます。」
「いいよ」
「あなたいいひとですね」
「え?」
「しゅにん、わるいひと」
そう言ってい主任を指差しながら頭巾マスク越しにイタズラっぽくニコリの笑った。
なんか少し気分が良かった。
高校は男子校だったし、それからすぐに仕事を始めて……最初に付きあった彼女も、
別れた妻も年上だった。
あまり年下の
なのでつい、
「じゃークリームがんばって!」
なんて言葉をかけて笑いかけてしまった。
「おーい。こっち手伝って!!このラインスタートさせてくれる!」
主任に声かけられてハッとした。
「わかりました!」
男一人は気楽だけれど、
やっぱり……。
ひとりっていうのは
さみしいものだ。
なんてね……僕も勝手な人間だな……。
ふふっと、苦笑いなのに込み上げてきた。
「じゃーここ動かすよ。」
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