第12話 要領が悪い者は損する不公平な世の中 ○
週5回働くなんて久しぶりだった。
仕事を始める前の日にこれからの事を母と綿密に話し合って家事の一部を依頼した。
実際一人でするなんて絶対に無理だ…。
小学生二人、保育園児一人……。
手のかかる時だ。
そして新しい仕事。
しかも今まで経験のないような世界の仕事。
昨日の晩は必死で覚えてあまりよく寝られなかった。
でもそのかいあって、
だいたいの事はあたまに入ってた。
現場に入ると鈴木がガサガサとやってきて、やっぱり早口で仕事内容を話し出した。
私は言われた通り昨日覚えた手順で仕事を進めた。思いの外に仕事が進んだので、次の指示を仰ぎに鈴木をよんだ。
「はっ?そんな早く終わる?」
疑念の目で商品を確認しだした。
そこに昨日現場を案内してくれた宮本がやってきた。
「どうですか?」
「はぁまぁ教えてもらいながら少しづつやってます。」
「そう。それは?彼女がやったの?鈴木さん。」
「そうです。」
さっきまで眉間にシワをよせて粗探しをしていた鈴木がにこやかに答えた。
「へぇー仕事覚えるの早いね。やっぱり大学出てる人は違うね。」
一瞬鈴木の顔がピクッとしたのを私は見逃さなかった。
「よかった。じゃー頑張ってくださいね。」
どこまでも低姿勢な宮本。
そしてどこまでも嫉妬深い女の視線。
宮本が去っていくと、あからさまに表情をかえて鈴木が怒り出した.
「ちょっと、こんな積み方したら全部倒れてきて中の商品使えなくなるじゃない?!昨日教えたでしょう?」
見ると重なり合う部分が少しだけ傾いていた。
「え?あーすいません。」
「すいませんじゃないよ全部積み直して。」
「え?全部……ですか?上2段だけで良くないですか?」
「はっ!?じゃー何その下は寸分の狂いもないわけ?昨日入ったやつが言う?」
やつってなんだ?
この人いったいなんなの?
どういう生き方してきたらそういう言葉がでるわけ?
とか思いながらも仕方がないから、
「わかりました。」
と言ってやり直す。
なんでだ?
なんでこんな仕打ちを受けないといけないの?
ただ私より早くこの仕事を始めただけじゃないか?
何個か積み上げただけで汗が出てくる。仕事を始めてまだ1時間もたっていないのに…。
ふと鈴木の方に目をめけると、もう1人のこれまた体の大きなプロレスラーみたいな人とこちらを指挿しながら、ニタニタしていた。
無理だ。
この女とは仕事は出来ない。
そう思った。
仕事っていうのは内容じゃない。
人間関係が全てだ。
この不快な気持ちを
午前中は耐え抜いて昼休憩を待った。
ところが9時から仕事をしてるのに、
13時になっても14時になっても休憩の声かけがなかった。
仕方がないので、
「私休憩まだなんですけど?」
って聞いたら、
「え?まだ行ってなかったの?早く行ってきて。」
そのまま事務所に向かって宮本を呼び出した。
「私無理です。なんでこんな扱いを受けないとだめなんですか?辞めます。」
少し涙目だった事もあって宮本は焦って隣の会議室に促してきた。
彼から逃れたと思ったら次はこれか?!
なんで私ばかりこんな目に合わなければならないのだろうか?
要領が良い方ではない。
何をするにも理解するのに時間がかかる。
でもいつだって人一倍努力して、寝る間も惜しんで勉強してきたというのに…。
なんなんだ?
結局要領のいい者が得をするんだ。
世の中って不公平だ。
そう思うと対して知らない男の前で涙がとまらなかった。
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