第4話 疑念と決め手 ○

蕁麻疹じんましんは薬を飲めばおさまるが、いったい何に反応してでたものか判断し難いらしく、近くの大きな病院にしばらく通院する事になった。


本当は入院と言われたが、これから子育てにかかるお金を考えるととてもそんな気にはならなかった。

夜中に来院したその日は点滴を打って、

何を口にしたかを聞かれ、

薬によるアレルギーという疑いもあるらしいので念のため薬は処方されなかった。


なのでしばらくの間は2日に一度点滴を打ちに行き、そこで食生活を聞かれそのほとんどは家で寝て過ごした。こんな状況下でも主人は休む事はできず……。いやむしろ休むつもりも無かったのだろう。それに家に入られても鬱陶しいだけだ。そう思い母に全ての家事をお願いした。



何気ない行動なのに何か違和感を感じる事がある。それはの特徴だと私は思う。

少なくとも長年見てきた主人の行動に違和感を感じた時は、その後に何か問題がみつかるのだ。



その日主人は仕事が休みだった。

彼が休みの日は流石に母に頼むのも申し訳なく思い家事全般をしてもらった。


「昼からちょっと出てくる。」


「何しに行くの?」


「それ全部言わないといけないの?」


「やましい事なければ、言えばいいでしょう?」


「いや、監視されてるみたいで…。」


「どういう事?!」


「図書館に行くだけ。」



そう言ったきり彼が黙りこんでしまったので、それ以上本人に追求するのはやめた。

その場では……。



信頼というのは一日にして得る事はできない。少しづつ少しづつ積み上げていくものだ。そして一度を持ってしまうと、

ジェンガの様に、一つ不安定な積み木を抜くと全て壊れてしまう。


私は嘘という物をこの世で一番嫌う。

騙くらかすなんていうのは卑劣な行為だ。

子供達にも小さな時からそう教えてきている。小さな嘘もそれを保つ為に嘘を重ねると、その無限に続く嘘の上塗りから、

いつも重圧を感じながら生きていかなければならないからだ。



まぁきっと図書館には行かないだろう。

女かな……?

いやまさかね……。


子供たちは下のおばあちゃんの家で遊んでいる。彼も晩御飯までには帰ると言っていたので少し眠る事にした。

あまりたくさん眠ると夜寝られないかもしれないから…1時間だけ。

そう思って横になる。

けれども眠れない。


やっぱり女だろうか?

こんなに嫌がっているのにやはり彼の不可解な行動が気になり眠れない。

いやむしろ嫌がっているからこそ

腹立たしい。

そもそも図書館に行く事さえおかしいのだ。

妻が体調不良で寝込んでいて、

義理の母に子供の世話をさせていったい

何をしに何処へ行ったのだというのだ?

帰ったら問い詰めるか?

いや問い詰めたところで本当の事を話すかなんてわからないか……。

まぁを見るしかないか…。



彼は約束通り、図書館の本を手にして夕方に帰宅した。

漫画本を何冊かと東野圭吾の小説を借りたとを話し始めた。

これも彼が嘘をつく時の特徴だ。


「少し寝られた?」


思ってもいないくせに、

口だけの気遣い。


だから私は騙されているふりをしてあげる。

そして感謝の言葉をかける。


「ごめんね……。せっかくの休みなのにご飯作らせて。」



「いいよ。図書館行かせてもらったし。ゆっくりしておいて。」


こちらが下手したてにでると上機嫌。

単純な人だ。


「よかったら先にお風呂入ってきたら。

さっき沸かしておいたし。私は最後に入るから。」



「そう?じゃあお米研いだらお風呂先に入ってくるね。それからご飯つくるねー。」





「うん。」

そして彼がお風呂に行くのを見送り、

彼のスマホに手をかける。


指紋認証はないようだ。

図形でロックか……。

指紋の跡を光に照らしてみながら、

閉じられた線を辿る……。



ハハッ……。


もう乾いた笑いしかなかった。

絶望よりも確信へ。

間違ったのは彼を選んだ私の選択……。

怒りよりも諦め……。

もう僅かな期待をしなくていいだけ、

気が楽かもしれない……。


私と彼の信頼の糸は

脆くも呆気なくきれたのだ。





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