第2話 本当の事を言っただけ……。 ○
本当の事を言っただけ。
あの日を境に私たちは一度夫婦という関係をやめた。
「明日からはあなたは隣の部屋に寝て。」
私は我慢の限界を感じた。
きっかけはいつだって些細なことだ。
その日は主人にパジャマが臭いと伝えただけだ。なのに彼はすごい剣幕で怒り出した。
でも仕方がない。
本当に臭かったのだから……。
本当の事を言って何が悪いのか?
それとも私が我慢したら良かったの?
怒られても釈然としなかった。
「何故洗濯に出さないの?」
と聞いてみた。すると、
「出したら…『なんでこんなに洗濯物が多い日にわざわざだすの!! 』 …と君が怒るから出さないじなゃないか!!」
と言われた……。
いやいやそれはいったいいつの話ですか…?
だって本当に多かったから言っただけじゃないか。
週末は体操服やらなんやらかんやらと洗濯が多いだから……。
それくらいわかってよ。
それくらい……。
わかってほしい……。
私は人より鼻が効くのだ。
いろいろな匂いが鼻につく。
惣菜屋さんの前を通るだけで使い古した揚げ油の匂いで嫌になる。
なのに主人は食品工場勤めだからたまらない。
元はイタリアンのコックさんだった。
パスタを作るのが上手だった。
優しい人だと思った。
わたしにすごく優しくしてくれる。
だから多分私だけを大事にしてくれると勘違いしたんだ……。
おおらか……と思ってた性格も、
見かたを変えれば大雑把で
何でも手早いのはよいが、
横着物で片付けられない。
物事の先々を深く考えられない。
優しいと言っても誰にでも優しい。
そういう人は一番誰に優しいか?
誰にでも優しい人は結局
自分に一番優しいのだ。
彼はそういうタイプだ。
だから彼には何もまかせられない。
お金の管理は苦手らしい。
私だって得意じゃない。
でもやっぱりまかせられない。
車の運転も得意じゃない。
何度危ない思いをしたかわからない。
以前使ってた彼の車はドロッドロっだった。
なんせ掃除をしない。
掃除をするという概念がないのだ。
当然車検等の管理も無理。
一度忘れかけて大変な目にあった。
いつも私が気にかけて、
いつも全ての出来事にアンテナをはって、
自分のこと、
お金のこと、
子供のこと、
挙げ句の果てに主人の事まで心配して
生きていかなければならない。
なんで……
なんでわたしだけこんな目に合わなければならないのだろうか。
それでも私は我慢し続けた。
母親に陰で文句を言いながらも、
本当の事をなるべく言わないように、
自分一人で抱えてやってきた。
子供の為に、そして世間体という人並みのプライドを守る為に平気なふりをし続けてきたのだ……。
そのかぼそいライフラインはある夜をきっかけにアッサリとそしてバッサリと切り捨てる事にした。
その夜何か身体に違和感を覚えた私は、
なんとなく眠りにつけずにいた。
たまらなく外の空気を吸おうと、
寝室を出ると隣の部屋で主人がイビキをかいて寝ていた。鼻の悪い彼の
嫌悪感に苛まれながらリビングへと向かった。
背中の痒みが気になった。
なんとか手を伸ばして掻きむしっていた。
今度は胸からお腹にかけて痒みが走った。
おかしいなー、と思い部屋の電気を灯すと、
全身に湿疹がでていた。
痒さもたまらなかったが、
その蕁麻疹をみて意識が飛ぶほど気持ちが悪くなった。
これは普通じゃない。
それに痒さが増していく。
主人に言って病院へいこう……、
と一瞬思ったが……。
こんなやつに頼るわけにはいかない。
少しでも借りを作るわけにいかない。
そう思い母を呼びにいった。
母は運転は出来ないから付き添ってもらうだけだが、救急外来に電話をしてもらい、
痒みに耐えながら自分で運転して、
病院へ向かった。
夜中の3時の出来事だった。
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