第14話 ENDmarker.

 彼。


 いま。


 なんて言った。


「女性につきまとわれるのも。そろそろ、つかれちゃって。もう、いいかなって思ったんです」


「なにばかなことを」


「本気ですよ。俺は」


 うそだと言ってよ。うそであってよ。


「嘘ではないことが。分かるはずだ。あなたには」


「ばか。ばかを言わないでください。なん、それは、なんという、ばか。ばかです」


「あはは。殺し屋なのに、殺しの依頼で困惑してる」


「ばかはあなたです。そんな。命を粗末にしてはいけません」


「殺し屋なのに?」


「う」


 たしかに。殺し屋が何言ってるんだろう。命をいちばん粗末にしてる仕事じゃん。


「いや。いやいやいや。でも。わたしは。街を護るためにやってるんです。正義の味方ですから」


「じゃあ、あらためて。正義の味方にお願いします。俺を、助けてください。殺すことで」


「なんっで。なんでそうなるんですか。ばか」


「ばかばっかり。でもたしかにそうだな。俺、ばかかもしれない」


 なんて言えばいいのか。わからない。


 どうしようもない。


 きっと、彼は。


 そう。


 顔が良くて。そのせいで人生を何度も狂わされて。


 絵を描くことで、そこから逃げて。


 そして、絵すらも描けなくなって。


 つらいのだろう、きっと。いきていくのが、どうしようもなく、いやになってしまったのだろう。


 だから。


「ごめんなさい。俺。言っても意味のないことを言ってしまった。忘れてください」


「待って」


 だめだ。このままだと。彼は、ひとりで、死んでしまう。


「待ってください。わたし。わたしが」


 わたしが。殺すしかない。


 その場で。


 銃を抜いて。


 構える。


「あ、いまやってくれるんですか。ありがたいなあ」


 涙で、にじむ視界。片方ずつ、まぶたを閉じて。開く。涙が引いて。彼の顔がよく見える。


「ありがとうございます。好きなひとに撃たれて殺されるなんて。しあわせだなあ」


 彼の。微笑み。にこっと。笑った。


 だめだ。


 殺せない。


 わたしには。


 彼が。殺せない。


 彼の代わりに。


 自分のこめかみに。銃を当てて。


 撃った。


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