15本目 動きました、お茶会です。
私が転生してから100年もの歳月が経ちました。
この場所に初めに存在していたのは、170センチほどの小さな木でした。
とても幼く、強い風が吹けば飛んでしまい、炎天下や氷点下なんかの異常気象が起こればすぐに倒れてしまい
そんな木として、この世界に生を受けた私ですが、これまで色々な事があり、とても大きく育つことが出来ました。
今では、高さはもう1キロを突破して尚まだまだ伸び続けています。
天上はまだまだ遠くにありますけど、美味しそうなわた雲がどんどん私の頭に近づいてくるのが分かります。
ここまでの高さまでいってしまうと、それは巨木などではなく、もはや山!
まだまだ成長しているので、いつかはあの空に手が届くでしょうか。
もしかしたら、雲の上に寝そべり、星に手を伸ばすなんて子供の夢みたいな事だって出来るようになるのかも知れません。
ここまで成長するのには、色々な出来事がありました。
一部、なんだか脳内にもやがかかってしまったかのように思い出せない箇所もありますけれど、それらは全て私の経験として蓄積されています。
どこへ行くべきなのかわからない上に、体が動かなくて、混乱してしまい創造神へ憤慨していたこともありましたし、周囲が何故か砂漠化し緑化作業に勤しむ事だってありました。
私が自分の能力に気付いてからはあっという間でしたね。
周囲に思いつく限りの能力を持った植物を創っているだけで時間が過ぎて行くのですから。
そんな経験の中で、ひとつ学習したことがあります。
私が植物だと思えば、たとえ自立して移動を始めたとしてもそれは植物なのだということ。
そうでなければ、光や水を気にせずに魔力を元に生命活動をしている一部の植物に説明がつかなくなってしまいますから。
これまで100年という長い年月を世界樹の状態で過ごしていた筈なのに、始まりがつい1ヶ月前のように感じるほどです。
それは、とても濃い時間を過ごしたことの証明になるでしょう。
そんな気がします。
ついに私は、世界樹と分離することが可能になり、実体化出来るようになりました。
こうやって自分を下から見上げるのは初めてですが、やっぱり高くなりましたね。
下から見ると、頂点がどこにあるのかわからないほどの高さです。
直径も数百メートルあるでしょうか、周囲を歩くだけでちょっとした運動になります。
そして、その周りの世界では、鳥が空を優雅に羽ばたき、動物達が呑気に草を喰んでいます。
植物が生き生きと成長し、動物達がその恩恵を預かり伸び伸びと生きるこの世の楽園。
それが私の世界です。
そんな中で私が何をしているかというと。
「これおいしいのじゃ!」
ティターニアが自ら私の口へクッキーを運んで来てくれます。
頂きましょう。
「美味しいですね」
シンプルで美味しいクッキーですが、上に特製の蜂蜜を載せればこの世に2つとない作品です。
そう。
ティターニアと一緒にお茶会をしていました。
目の前にある切り株のテーブルの上には、沢山のクッキーや果物、さらにカップの中には透き通った緑色の液体が。
美しい女神と可愛い妖精が花畑でティーパーティーをしているこの光景は、後世の美術館に飾られていてもおかしくないほど絵になってます。
このために、お洒落さに振り切った切り株のテーブルやお揃いの切り株の椅子を出したはいい判断でしたね。
ティターニアはなかなか椅子に座ってくれませんけど。
せっかくなので、高品質の茶葉が取れるそれ専用の木も創り、周りから栄養を吸い取ってクッキーを無限に精製する木を創った甲斐がありました。
お茶は緑茶ですし、クッキーも1種類しかないのか寂しいですけど、私はこれで満足しているので構いません。
最初は、蜂蜜を見てからずっと妄想していたふわふわで甘々のパンケーキを作ろうとしたのです。
頑張って小麦をすり潰して、膨らし粉も創って、火が出ないほどに熱される台とか、お皿とか、色々なものを準備して。
そうして作ったパンケーキは、ティターニアには「おいしいのじゃ!天才じゃー!」と、とても好評でした。
ですが、私にはそこまでそこまで美味しく感じなかったんですよね。
もちろん。美味しくなかった訳ではありません。
やっと味を感じることが出来るようになったこの舌には合わなかったというのが正しいでしょう。
なんででしょうか。自分で頑張って作ったものは、他の物より美味しく感じるなんて聞いていましたけど。
パンケーキへの期待度が大き過ぎたのでしょうか。
やったの思いで作ったそれは、少しボロボロであまり味がしなく、なんだか悲しくなってしまったので。
比べるものが悪かったとしか言いようが無いですね。パンケーキミックスの恐ろしさを思い知りました。
パンケーキなんて、小麦粉と炭酸水素ナトリウムと砂糖を混ぜて焼けば簡単に出来るものだと思っていました。
結局。諦めて、私が想像した通りの味のクッキーを作り出すことの可能なクッキーツリーを創ったのですが。正解でしたね。
料理のしたことない人が安易に手を出すべきではなかったのです。
でも……パンケーキぐらいは作れると思っ……
「これもおいしいのじゃよ!」
「美味しいですね」
目の前に差し出されるクッキーを頂きます。やっぱり美味しいですね。
甘さ控えめですし、ひたすら食べれてしまいます。
「これもおいしいのじゃー!」
どれも同じクッキーなのですけど。
「いらんのか……?」
美味しいから欲しいですね。
「あげるのじゃ!」
これでは、女神と妖精の優雅なティーパーティー♪ではなく、見目麗しい妖精をただこき使う駄女神じゃないですか。
誰かにこれを見られたら、私の品性が問われるのでそんな事しなくてもいいんですよ。
目の前で美味しそうにクッキーを頬張ってくれればそれで十分です。
それとも、そんな接待するほどここから居なくならないで欲しいんでしょうか。
かっ、可愛いですね。
そんな事しなくても急に居なくなったりなんてしませんよ。多分。
それにしてもクッキーだけだと喉が乾きますね。お茶も準備しておいて良かったです。
茶葉を積んでお湯を作ってなんやかんやと面倒でしたけれど、それぐらいはなんとかなりましたし。
カップからお茶を飲もうとして気付きました。
「お茶無くなっちゃったんで下さい」
私が神になって110年もの歳月が経ちました。
私の周りは、菓子や果物であふれていて、甘い物好きには喉から手が出るほど嬉しい光景でしょう。
そうでもない人から見たら、甘い匂いが強過ぎて吐き気を催してしまう可能性は捨てきれませんけど。
そして、私の周りの世界では、鳥が空を何かから逃げるように羽ばたき、動物達が何かから逃げるように集団で移動しています。
植物が生き生きと成長し、動物達がそれを怖がり逃げ惑うように生きるこの世の
それが私の世界です。
そんな中で私が、何をしているかというと。
「これおいしいのじゃ!」
ティターニアが自ら私の口へクッキーを運んで来てくれます。
頂きましょう。
「美味しいですね」
中に紅茶が練られたクッキーに果物のジャムが載せてあるなんて、高級なお店でなければお目にかかれないでしょう。
そう。
ティターニアと一緒にお茶会をしていました。
目の前にある切り株のテーブルの上には、様々な種類のクッキーが所狭しと並べられています。
紅茶が練り込まれたクッキー。色々なジャムが乗っけられたシンプルなクッキー。果てには、チョコチップクッキーまであります。
なんでこうなったのでしょう?
なんだか幸せ過ぎて意識が飛んでいる気がします。
それと、なんだか辺りが騒がしいのは、誰のせいでしょうか。
少し辺りを探るとすぐに犯人は見つかりました。
空を飛ぶ鳥にさえ手が届くような巨木がそこにはありました。
根が動き、沢山の動物達がそこに縛られています。
捕らえられた動物達を救おうと、仲間達が総攻撃を仕掛けていますが、効いている様子がないです。
電撃や風撃、炎さえも物ともしない恐ろしい木がこの世界を壊そうと暴れていました。
根に縛られた動物達は、すぐに動けなくなり、栄養を絞られるように萎んで無くなってしまいました。
酷い光景です。
そして。なんと……その
つまり、
「クッキーモンスター!?」
「どうしたんじゃ?急に叫びおって」
膝の上に乗っかっていたティターニアが驚いて飛び上がってしまいました。
脅かせてしまって申し訳ない気持ちも湧きますけど、それよりも大変な事が起こっているので仕方ないでしょう。
「あれはなんですか?動物を襲ってるやつ」
「何って、お主が作ったものじゃよ」
「クッキーツリー?」
「そう、それじゃ。世代を重ねたクッキーツリーじゃな」
「なんであんな事になったんですか?」
「お主がどんどん能力を足していったのだろう?」
……そうでした。
クッキーの味に飽きてしまったので、動けるようにして、辺りから果物や茶葉を取れるようにしたんでした。
それが成長しきってしまった姿があれなのでしょう。
次出てくるクッキーはウサギ味だったりするのでしょうか。
クッキーの味がどうとか言ってられなくなりましたね。
ごめんなさい。すぐに消去します。
ぽんっと音が鳴ると、その木と共に死した動物達も消えてしまいました。
自分のこの強力な力を、私欲のままに軽々しく使う意味というものをきちんと理解しなければいけませんね。
そう。クッキーはダメです。
飽きちゃいましたし。
次は、ゼリーにしましょうか?
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