13本目 名前を付けました、存在意義です。
「とりゃー!」
——あふっ!
「のじゃー!」
——ちょっと!
「避けるんじゃない!」
——そこはっ!
「早く出てくるのじゃー!」
幼めの美少女がニコニコと楽しそうにしながら、私の本体らしいところを触ってくるのは、正直ドキドキしますけれど。
私の誰にも触られたことのない部分が急に押されるのは擽ったさや恥ずかしいものがあります。
それに。
——ちょっと楽しくなってますよね?
「わしの仇ー!」
——ついに仇って言いましたか。
一方的に私に触って反応を見るのを楽しく思っているのでしょう。
これは、やり返さなければ……。
蔦を出して脅してやろうとすると、ティターニアの体が固まって動かなくなってしまいました。
飼い主に怒られるのを恐れる犬のようです。
一体どうしたんでしょうか?私まだ直接的な事は何もしてませんよ。
「それはやめるのじゃ」
ティターニアはしばらく縮こまった後、私があれを出さないようにすると、それが分かったのか怯えた様子で私にそう言いました。
それはそれで少し加虐心が……。
いや、なんでもないです。それよりも。
——なんで私が蔦を出そうとしている事に気づいたんですか?
私専用の回避不可能な一撃必殺の奥義の予定だったのに、簡単に避けられるのであれば改良する必要が出てきてしまいます。
「お主がそれを使おうとすると、周りに魔力が集まってくるのじゃよ」
——魔力?ですか?
私の世界に新しい住民が来たことで、私に流れる時間が遅くなり、有意義な時間を過ごすことが出来る様になるんじゃないかという期待を抱いていました。
しかし残念ながら、寿命という概念がないであろう生物が2人?集まったことで、1人の時よりもさらに時間の進みが早くなった気がします。
気がついたら、もう年齢が90歳を超えているのですから。
もう、前世の医療の発達によって高齢化社会となっても、あまり見ることのないレベルの年齢でしょう。
改めて人間をやめてしまった事を実感します。
何かを創造する事で時間を過ごすことは多かったのですが、ただひたすらどつきあっているだけで、こんなにも長い時間が過ぎてしまうとは露にも思いませんでした。
もちろん他にも色々とやることはあったんです。
私の近くに用意してあるツリーハウス。ツリーハウスと言っても木の上に掛けてあるような家ではありません。
大きな木の中を抉り取って、窓や扉を付け、中に木製の家具を詰めたような家です。
樹のような見た目の家なんていうのはテーマパークで見たことがありますけど、実際に自然のものでこれが出来るなんて!
残念ながら、これはもちろん全て妖精サイズなので、私がここから出ることが出来たとしても使う事はないでしょう。
少し憧れますが、私が入れるようなサイズの樹の家なんてのは創りません。
樹in樹なんていう意味不明なマトリョーシカはちょっと……。
サイズ感や、色、装飾など、色々と注文が細かかったので苦労しました。
全て木製の一品ものです。
問題は全て同じ木から出来ているので動かせないことぐらいです。模様替えは出来ません。
そんなティターニアの家を0から創り出したり。
ティターニアが、完全栄養食である小麦だけではつまらない。
もっといろんなものを食べたい。と言うので、色々な果物なる木を創ったりと。
今回創った植物で1番特徴的なのは、近くに置いておきたく無かったのであっちの端っこの方に避難させた、ドクドクと脈打つ赤い木の実がなっているもの。
肉の木です。
なんともグロテスクでこの少しメルヘンチックな世界には合わないですけど、豚ロース味から牛カルビまでの色々なお肉が取れるという素晴らしい木になっています。
私には味覚が無いので、味がどうとかはいえませんが、追いやられた肉食獣の救いになったので良かったとしましょう。
肉を美味しそうに食べるその姿は、私に対する攻撃なので、やめて頂きたいのですけど。
飯テロの恐ろしさを再確認しました。
今なら生肉だとしても美味しく頂けそうですもん。
そのように生活環境を整えた後に、なんで私達がこんなことをやってるかと言いますと、蜂蜜の件が落ち着いた頃にこう言う会話があったからです。
とある天気の良い年。
——そう言えば、なんて呼べばいいんですか?
妖精さんだとなんか他人行儀というか、種族の名前で呼び続けるのもなんだかおかしい気がしますから。
私も世界樹さんとか命の神様とか言われると……。
あれ?そんなに不快では無いですね。
世界樹とか命の神とかはやっぱりオンリーワンな存在だからでしょうか。
下手したらユグドラシルという名前の方が多いかも知れませんし。
それでも、前世の時に別の生き物から、おい!そこの人間!とか呼ばれたとしたら、普通の人ならちょっとは反抗心が湧くでしょう。
私は、前世で未知の生命に遭遇してそんなこと言われたら無駄な感動もしそうですけど。
「わしの名前か?特にないのう」
ないんですか……不便ですね。
——名前をつけようとした人がいたりしなかったんですか?
「おったよ。1人、人間の男が」
——どんな名前です?
「忘れたのじゃ、わしに他の女の名前をつけようとしたのでぶっ叩いておしまいじゃの」
——うわぁ、そんな人いるんですね。
「うむ、おかしな男じゃった」
その人のこともちょっと気になるんですけど、今は関係ないので置いておきましょう。
そうですね。
——私が名前を付けてもいいです?
「お主が付けたいなら良いぞ、いい名だったらこれから名乗ってやろう」
——ティターニアというのはどうでしょう?
妖精といえば、ティターニアでしょう。という理由を聞かれたら怒られてしまうかもしれません。
「ティターニアか。悪くないのじゃ」
という妖精さんの名付け親になったという会話が……。あの後すぐにあったんですけど……。
これはこの状況を説明できる会話じゃ無かったですね。
もうちょっと後のやつでした。
とある天気の良い年、夜空を見上げていたのです。
——私の城があそこにあるんですよね。
「お主の社じゃな、あると思うぞ」
——私も一国一城の主になるんですね。
「すでに、一宗教の主じゃろう」
——執事様とかメイドちゃんが居たりすると嬉しいんですけど。
「お主最高神なのじゃろう?教徒ならいくらでもいるじゃろうに」
——どこに私の教会があって信徒がいるんでしょうか?
「命の神じゃろう?見たことも聞いたことも……まぁ、何処かにはあるじゃろう」
——そういえば、あそこってどうやって行くんでしょうね?
「分離できんのじゃ?」
——分離……出来るんですか?
「出来る筈なのじゃが」
——教えて下さい。
自由に動けることを夢見て、この妖精に教えを乞う事にしました。
それが結局、私を押し出そうという意味不明な事態になったのかというのはよくわかりません。
「無理そうじゃな」
——じゃあなんでやってたんですか!
なんか、やりきってやったぜ!みたいな感じで言ってますけど、なんでそんなに威張れるのか謎です。
「いけると思ったのじゃが」
私が怒ったように叫ぶと俯いて、しょんぼりしてしまいました。
少しいじめすぎてしまったかも知れません。
せっかくの暇つぶ、いや、話し相手なんです。
仲良くしなければ。
さっき、魔力を感知して私の力を避けれるって言ってましたよね。
——魔力、見えているんですか?
「もちろんじゃ。お主の体からも沢山出ておるよ。葉っぱから、根っこから、気づいておらんかったのか?」
さっきの様子とは一転して、元気そうに、自慢するように話します。
なんでしょうかこの生物は。可愛すぎません。
私の体から魔力が流れ出ているんでしたっけ……。
え?
——そうなんですか!?
「神は魔力を世界に送り出す者じゃからのう。じゃから、わしもお主が神にまつわる者である事は分かっておったんじゃ。本神だとは思わなんだが」
そういえば、神樹だとは思ったけど、神が憑いてるとは思わなかったって言ってましたね。
この世界の神と言うのは、他の生物が利用する魔力というものを生産し続ける者の事を言うのでしょう。
つまり、神である私は魔力の永久機関なんですね。
へぇ、MPの値が無限なのもそれで。
「それが神の存在意義じゃからの」
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