3本目 木になりました、状況把握です。


 うーん。


 とりゃー!


 あぁ、だめです。うんともすんとも言いません。




 真っ暗闇な死後の世界で偶然会った神様らしき人の力で、見事に異世界転生を果たしたはずであったのに一歩たりとも動けませんでした。


 さらに言ってしまうと、腕も頭すらも動かせません。


 あの神様を訴えてやる!

 あの落ち着いたおかしな態度も、こちらを煽るような様子も、あれもこれも全部私を困らせてやろうとしていたのでしょう。


 あんな得体の知れない人を信じるんじゃなかった。


 なんてことをひたすらに考えていて、やっと気持ちが落ち着いたのがついさっき(1日前)なのでした。


 本当にどうしましょうか、体がピクリとも動きません。

 せっかく別の世界に来れたのに速攻金縛りです。このまま何も飲み食いできずに餓死してしまうのでしょうか。がくがくぶるぶる。



 しかし、あれから1週間かけて(ほとんど混乱していたのですけど)自己確認していたところ、この体が木であることがわかりました。


 自分でも何を言っているのかちょっとよくわからないですけど、本当のことなんです。


 なんてったって、首を捻らなくとも360度大パノラマです。景色は特に何も変わりませんでしたが。

 横を見てみるとえだに緑の大きな葉が沢山生えていましたし、下を見てみると根っこが地面に埋まっているのがはっきりとわかりました。


 一旦落ち着いてこれを見てみればもう諦めるしかありません。私は神ではなく、人ですらもなく、ただの木になったのでしょう。


 前世の体と視界の高さがあまり変わらないのみたいなのでおそらく170ちょっとでしょうか。

 木としては多分まだまだそんなに高くありませんよね。

 それとも、このサイズで終わる感じの植物でしょうか。

 それだと残念です。


 しかし、全くこんな状態で何をなせと言うのでしょうか。

 私が願ったのは人並み以上の能力と寿命です。あと、歴史に名を残せるような偉業を起こせるような能力……。

 確かに、木は人より力強いでしょうし、寿命も人よりは長いでしょう。

 最後のは行ってから頑張ってとは言ってましたけど。

 でも、これは酷くないですか?



 神様が私のことを神にしてくれるって言ったのを一旦、ひとまず信じてみましょうか。

 私はこの世界の最高神になったとします。


 その場合……。


 例えば、あの神様が知識を入れ間違えて実は植物達の世界ということはないでしょうか。

 みたところ一面草っ原ですし、そこらへんの草から見たらこのような小さな木であったとしても神のごとき大きさをしていることでしょう。


御神木様今日も立派な幹をしていらっしゃる。

あの葉も光を浴びて綺麗な緑色じゃ。

なんと素晴らしい拝んでおかなくては。

そうじゃ。そうじゃ。


 みたいな感じでしょうか?


 考えていて悲しくなりました。

 自我があるのに自由に行動することができないこの状況、泣いていいですか。


 さてさて、本当にどうしましょうか、体は動きませんし、楽しいこと(動く物)もなければ、外敵(草食動物)も存在しません。


 幸い?体が木だと判明したので、餓死を心配する必要はなくなりました。


 植物に必要なのは、光、空気、水です。あとは、地面から少し栄養を分けて貰えれば大丈夫。


 光合成するために必要なエネルギー、光は天高くをぐるんぐるんしてますし、空気は勿論あります。


 水……水?そういえばここに来てから雨が降ったりなんてしてませんね。

 本日も素晴らしく晴天です。あれ?も、もしかして餓死ありえます?

 まだ、1週間しか経ってませんから、そんなこともありますよね。大丈夫ですよね。



 あと周囲にいるのは精々虫でしょうか、私の下の地面をありっぽい虫がはっているのは確認しました。

 さっき植物の世界だったらって言いましたけど、虫の世界だったとしても終わりですね。


 意思を伝えることができません。

 もしかしたら方法があるのかもしれないですけど、今はちょっと無理っぽいですね。


 もし意思を伝えることができるのであればそこら中にいる虫達から神樹と称えられることでしょう。

 それで御供物やらなんやらが私の周りに……。


 やめておきましょう。虫に集られるシーンしか想像出来ませんでした。

 前世の私は、虫なんて滅多に見ない都会暮らしだったので、そんなに虫は得意じゃないのです。


 植物の世界にしても、虫達の世界にしても、いささか世界が大きすぎるのではありませんか?


 もしそういう世界で、私が他から見てものすごい高く立派な木であった場合もうちょっと空が、太陽が近くてもいいと思うのですが。





 頭上の光が世界を回るのを体感的に早く感じます。


 睡眠も不要なのかずっと私の意識は残ったままで、毎日毎日、ありやバッタなどの小さな虫の観察を続けていました。


 このままでは、私は昆虫博士になれてしまうでしょう。


 ありは地面に穴を掘って巣を作り、バッタは草の裏で眠るんです。

 博士樹はくしきでしょう?


 何か歴史に残るようなことをしたいとは言ったのですが、昆虫博士として名を残したいとは一切言ってないんですけどね。


 あの……えっと、シートン……さんは動物記か、ファーブルさんみたいな感じで?


 私がこんな状態でも太陽の光は全てに等しく降り注ぎます。ありにだって、バッタにだって、草にだって。

 もちろん木にも。


 つまり時間はどんどん過ぎていきます。


 なんと!?これが自然の摂理!



 少し思ったんですけど、ありって賢いですよね。それに力も強いですし。

 いっそのことそのまま成長していって、言葉とか話し出したりしませんかね。

 そうしたら退屈しなさそうでいいんですけどね。


 あれっ?死んじゃった。

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