0本目 死にました、回想です。
周囲は、光という概念が消失してしまったかのように真っ暗闇で僕を包む優しい世界。
昔、田舎のお爺ちゃん家で縁側の暖かい日向に寝そべってしまった時のように。
そのまま、うたた寝をしてしまった時のように。
なんだか、とても心地よい夢を見ているように感じるこの不思議な世界。
そんな世界に心の奥底まで浸らせながら、僕は何ともなしに自分の人生の回想を始めていた。
ここに来てしまう前の僕は、他の誰とも変わりのないだろう、平凡で代わり映えのない日常生活を送っていた。
面白いようなことなんて何一つなく、17歳、高校2年生として当たり前の本当に普通の生活だ。
朝は、決まった時間に目を覚まし面倒くさいなぁと思いながらもなんだかんだで学校に行く。
午前中は、ある程度内容が入ってくるぐらいのぼんやり具合で授業を受ける。
昼は、購買でパンでも買って食べる。
午後は、眠くなりながらもまた授業を受ける。
それで家に帰ったら、だらだらとスマホを弄ったり、家族とテレビを見たり、色々なことをしてから日付越えごろに寝る。
という感じの、ごくごく平凡でひねりのない平和な日々だ。
ある意味、高校2年生の平均をとったような素晴らしい日常なのかも知れない。
青春真っ盛りの高校生らしく、好きな女の子なんかもいた訳なんだけど……。
今この状況で、全く名前も思い出せないし、それどころじゃなく、もう顔もあやふやなんだ。
所詮そんな程度の思いだったのかな?
もう今の僕は、好きだった女の子なんかのことどころじゃなくて、小学校からずっと仲の良かった友人のことなんかも頭の中から消え始めている。
果てには、僕のことをいつも気にかけてくれた両親や、ケンカすることだってあったが楽しく遊んで過ごした兄弟。
そんな家族達の顔までもが、逆光が掛かってしまったかのように朧げになってしまい、はっきりと思い出すことが出来なくなってきていた。
勉強だって特別にできるわけでも無く。
部活に精一杯取り組むわけも無く。
好きに動画を見て、気になった本を読み。
流行りのゲームをしながら。
将来には、なんか特別なことをしたいなぁと思うだけ日々。
僕の人生はずっとそんなものだったから。
ここに来てしまう前のこと。
僕の人生最後になってしまった日だって、せっかくの休日だし天気がいいから近所のデパートにでも行って、本屋を漁るかCDでも買おうかなぁ。
なんていう家の隅に転がっている綿埃よりも軽いフワッとした気持ちで家を出たんだ。
そうしたら、視界の外から急に大きいトラックが走ってきてドカンッと視界が跳ねた。
それから痛みとかではなくここにいるってことはおそらく……。
痛みが一切無かったのが唯一の救いだろうか。
あーあ。
交通事故で死んでしまうだなんて、死に際まで一つも捻りが無い。
まぁ、ニュースにとり上げられてしまうみたいな面白い死に方なんて絶対にごめんだけど。
結構色々と考えこんだんだけれど、あんなことがあった後で目を覚ましたらこんな暗い場所にいるんだから、やっぱりここが人生の終点。
死後の世界ってことなんだろう。
みんな死んでしまったら、天国でも地獄でも無く、ひたすらに続く暗闇の中で誰にも知られず消えていくんだろうか。
死後の世界がこんなに酷い世界だったのならば、いっその事なにか凶悪な犯罪でも犯して地獄に落ちた方が退屈しなくて良かったのかもしれない。
地獄なんて場所が実際にあるかどうかはわからないけれど。
……いや、ごめんなさい。
流石に、僕に地獄なんて無理!
血の池!とか、針の山!とか、釜茹で!とか色々な地獄を少し想像するだけで恐ろしい。
まず閻魔様に会うってだけで恐ろしくてたまらない。
舌を引っこ抜かれて断罪されるのだ、だってその時の僕は凶悪な犯罪を犯しているのだから。
そもそも生前の僕が、死後がこんな所だと知っていたとしても、地獄に落ちるような罰当たりなことする訳ないじゃないか!
例え犯罪紛いなことをやろうとしたとしても、実際に出来るようなやつじゃないってことは、この僕自身が、他の誰よりも1番よく知っている。
そもそも凶悪な犯罪ってなんだろうか?
銀行強盗とか?
そんな程度の考えしか出来ない善良な市民なので。
あるいは。
僕が現世にもの凄い執念があって、本当にギリギリのギリギリまで元の世界に執着するとすれば、元の世界を眺めながらゆっくりと成仏することが出来たんだろうか?
もしそんなことが出来るのであれば、今から戻ったり出来ないのだろうか?
もう少しぐらいあの世界にどうにかして縛り付いていれば良かったというのに!
どうせ僕のことだ、きっと自分の事を平凡でつまらない人間だとか言って心のどこかで死をすぐに受け入れてしまったんだろう。
そんなことがなければ自分の葬式とかを見ながら、ゆっくりと成仏することが出来たのだろうに…………。
いやぁ、それもそれでなんだかなぁ。
僕が不注意で死んでしまったせいで、家族や友人の皆が泣いている顔とか見るなんてどっちみち罪悪感で死にたくなってしまう。
その皆んなが、僕が死んでしまったのに泣いてなくても、情けなくて死にたくなってしまうことだろう。
『おーい!』
うーん、やっぱりなんだかんだ言ったって、何をやるのにも中途半端で、特にやる気もなかった僕という人間の最後としては所詮こんなものなんだろう。
『おーい!!』
幸いここは何故か心地いいし、のんびりと僕という存在が全て消えるのを待っていますか。
本当に、ずっとこんな所に意識を保ったまま放置とかそんなことないよね!?
そんなことになったら流石に神様を恨むから!!!
『おーい!!!』
もし来世と言うものがあって、今のこの気持ちをほんの一欠片でも持っていけるのだとしたら、この後悔の気持ちを一つ残らず全てやる気に変えて思いっきりはっちゃけてやるのに。
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