第5話 トゥーハンドは格好は良いが、目が左右別々の敵を認識出来ないと使い物にはならない

「Welcome back, Mr. Damon」

PDAを起動すると、いくつか依頼が入っていた。この時代においても人工衛星を介した超長距離ネットワークというものは奇跡的に生きており、適切なアクセス方法と電力、それからどでかいパラボラアンテナさえあれば誰かと通信することが可能なのである(きちんと方向を合わせることが出来ればだが)。サーバーが死んでいることの方が多いのでアダルトサイトなんかを見ることはできないが、宙に浮かんでいて戦火を免れた旧軍や民間の衛星通信は使える。よく使うサービスは以下の二つだ。


Rewards for Justice。正義への報酬、通称RFJという制度がある。旧来においては米国に危害を及ぼす可能性のあるテログループなどの通報によって賞金が出るシステムだった。制御する人間の居ない現代においては、無数に生産され続ける偵察用ドローンや監視衛星によって人間に安全度のランク付けがなされ、それにより賞金首を作成するシステムに成り下がった。

Work for Alliance。職安だ。政府が管理していた職業案内サービスであり、現在でも誰でも求人を出すことが出来るうえ、仕事を求めている人には連絡まで届くという優れものである。現在はプロフィールを登録したユーザーに直接依頼、逆オファーという形が主流だ。不特定多数への依頼など自殺行為なためそれも必然か。



「hm…厄介だな」

依頼内容は以下の3つ。

1つ、レイダーの村を殲滅せよ。これには他に依頼を受けた2名が戦闘員として付随する。誰が死のうと報酬額が増加するわけではない。協力して事に当たれ。これは緊急の依頼である。

2つ、この村に攫われた少女を無傷で確保せよ。少女のパーソナルデータは極秘である。知る必要はない。

3つ、その少女を120日間保護せよ。ドールフィリアである君には彼女を襲う動機がないと我々は判断した。ほとぼりが冷めるまで少女を守護したまえ。


「さて、どうしたら俺が人形に倒錯した感情を抱いているという誤解を解けるだろうか」

問題はそこではなかった。120日間という長期にわたって見ず知らずの人間と生活を共にするということはかなりのストレスだし、そもそも少女を無傷で保護出来るという保証もない。その後もどれだけの襲撃があるか予想すら出来ない。

ひどい依頼である。おまけに同業者と足並みそろえて仕事をしなければならないというのは最悪だ。自分の実力のほどがバレるというのも嫌だが、それ以上に人間関係というやつは厄介極まりない。


[報酬内容]

依頼1。30万ドルをキャッシュで用意する。要望次第で鑑定書付きの貴金属への変更も可。また、仕事中の弾薬費の一部負担。何を何発使用したかの詳細を提出すること。

依頼2。Grey Wolf社製シナプス強化インストーラー。

依頼3。依頼達成時に提供される。


だが報酬内容にはかなり興味がある。特にシナプス強化インストーラーは喉から手が出るほど欲しい。神経伝達物質の分泌を促進、更に受容体を強化することで神経伝達のプロセスを加速させる。難しい話は俺にもわからないが、要は得意のファニングショットがさらに早くなるということだ。これは一生涯続く。これひとつのために命を懸ける価値はある。


受諾したというメッセージだけ送ると、戦争の準備に取り掛かった。

四本の弾倉ポケットのあったバリスティックベストからはそれらが取り払われており、左脇腹から正面に突き出すような形で再び縫い付けられている。丁寧に10発弾を込めた弾倉をそこに差し込む。レミントンMSRというライフル用の弾倉だ。右腰に巻く弾薬ポーチにはベレッタ用の15発弾倉が10本。さすがにパイソンをリロードしている余裕はない。自動拳銃はその点便利だ。好みではないが、そうはいっていられない。ついでに9ミリ弾は在庫がダブついているため消費したいという思いもある。無煙火薬は放っておいたら消えて無くなってしまう。いざというときに弾が出ないのはごめんだ。

それから12ゲージを2ダース、ウエストポーチに詰めて弾薬の準備は完了である。

使用する武器の分解清掃も終えてライフルのスリングを調整する。弾倉の装填まで完了すると、ショットガンにも弾を込めていく。D&M社製SG12。比較的新しい銃だ。ガス圧利用式の自動装填セミオート。銃口は12ゲージ対応の対人用のものと、8ゲージ対応の対機械化兵士用のものが存在する。普通の人間に撃ったら削れてなくなるくらいの威力がある危険な弾薬だ。装弾数は12発。サーベルの様に腰に吊るした。

次に最新の地形データをダウンロードしながら、リュックサックに必要なものを詰める事にした。


「3Lの水筒2つに水を入れてくれ」

イリアに水の用意を頼み、自分は携行用の食料を戸棚から出す。ラベルの掠れたスチール缶3つと硬く焼きしめたパンを6枚に、ドライフルーツを一束取り出す。

ガスストーブと燃料ボンベを取り出したところでイリアが水筒を持ってきた。リュックサックの中には10リッターのゴミ袋をセットし、簡易防水処置とする。両サイドに水筒を配置し、その間に容器に入れたガスストーブ。着替え、食料、予備弾薬、バウンティハンター七つ道具を詰め込む。お守り代わりのパイソンハンターをしまい、最後に袋の口を縛って準備完了だ。


「イリア、留守を頼む」

「いってらっしゃいませ、キング様」


家を出てガレージを開ける。そこにはパーツを新しくしたばかりのGL社製電動バイクがあった。最高時速630km。音速の半分で走ることのできるマシンだ。なお搭乗者のことは一切考慮されていないので、現実的な最高速度は200キロといったところか。それもアスファルトの上を走る前提である。


バイクにまたがり鍵を差し込む。エンジンを指導させると風防ガラスの上にホロスクリーンが発生し、衛星データとリンクして現在地を割り出す。

「目的地座標、東経――」

レイダーの村を登録すると自動運転モードになったバイクは、滑るように走り出した。後ろを振り返るとイリアがガレージのシャッターを降ろしていた。


目的地であるレイダーの村は、旧サンタ・マリアシティの近郊にある。俺の現在の住処はロサンゼルスの外れ、空軍基地の近くにある。この空軍基地は現在はマーケットになっており、このあたりのあらゆる品物が集まってきているのだ。ロサンゼルスの方は完全に破壊されており、そこから空軍基地へ金属などが持ち込まれている。

さて、現在は通行可能な道は殆ど残っていないためレイダーの村までは約4時間かかった。指定されたランデブーポイントに到着したのは昼過ぎで、ボロボロの小屋の中からは男女の話し声と食器の音が聞こえていた。


「邪魔するぞ」

ドンドンドンとノックをしてからドアを開ける。ボロ小屋の中には中腰になり武器をこちらへと構えている二人組が居た。

「どうやら俺が最後のようだな」

そう言うと二人はいくらか警戒を緩めた様子でこちらに話しかけてきた。

「2匹の犬」

「銀の弾丸」

合言葉を返せば、完全に警戒を解いて椅子を勧められた。


「俺はアダム。こいつは妹のイヴ。双子でバウンティハンターをやってる。オルトロスってチームなんだが、知ってるか?」

「いや、悪いが知らん。活動はこのあたりか?」

「いいえ、今はネバダのラスベガスが拠点よ。あの辺りは悪党どもの巣窟だからね」


旧ネバダ州は砂漠だった。今では気候変動により雨が増え緑が戻りつつあるが、熱気は変わらない。そのため霧が立ち込める非常に隠れやすい地になってしまっている。そんな中で賞金稼ぎを続けているというこの兄妹の話が真実なのであれば、ある程度腕は立つのだろう。

「俺はデイモンだ。特に洒落た名前は付けちゃいない。大体ロサンゼルス近辺で仕事をしている」

「獲物は見ての通り、レミントンMSR、D&MのSG12、ベレッタだ。遠近戦えるが中距離戦闘には向いた装備じゃない」

ゴトゴトと装備を机の上に並べる。すべての手の内を晒したわけではないが、少なくとも今回はこの武装で大丈夫だろう。


「俺はこいつだ」

アダムがそう言って取り出したのはデザートイーグル。おそらく口径はコンマ54インチ。.50AE弾用の世界最強クラスの実弾拳銃である。それが二丁。見たところ腕力に優れているわけでもなさそうである彼が、片手でこれの反動を殺せるとは思えない。あまり近くでは戦いたくないな。


「私はこれ」

「ナイフだと?正気か?」

イヴが腰の鞘から取り出したのは刃渡り6インチ程のコンバットナイフ。全長は12インチほどで、グリップの革は相当使い込まれたように見受けられる。イヴは驚く俺を見ながら薄く笑い、先程俺に向けていたマシンピストルを机の上で小突いていた。ベレッタM93R、3点バースト式のマシンピストルである。どうやら折角の長い銃身を切り詰めてかなりショートバレル化しているようだ。


「私はこれを持って突っ込んで、気付かれるまでナイフで殺し続けるわ。バレたら格闘を織り交ぜた近接射撃戦闘」

「そうか」

こいつはまともじゃない。


「丁度前衛、中衛、後衛と揃ったわけだ。バランスがいいじゃねーか」

兄の方も頭がどうかしている。照準の定まらなさそうな二丁拳銃で、妹が格闘戦をしているさなかに弾丸をぶっ放すつもりらしい。こいつらはイカれてる。あまり近寄らないようにしたいところだ。


「わかった、俺は最初は援護に徹しよう。頃合いを見て突入させてもらう」



あとがき

遅くなりましたが更新しました。正直前回投稿から文書作成用のソフトに殆ど触れてません。ゲームやってました…。

5回くらい書いた文を消して別の話にしてます。キャラを思い出しきれてなくて言動がブレブレ過ぎる。

ショットガンは現代以降に作られた設定のオリジナル(その表現はチープに聞こえる)です。ネーミングセンスは許してほしい。

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