第4話 ここは静かに酒を飲むところだ
鉈でボスの首を切り落とすと、断面にボスの着ていたシャツを裂いた布切れを押し込む。こいつの首は周りの集団に高く売れるだろう。俺を売り込むのに最適な道具だ。
今しがた持ち主を殺したバイクの中から一台選ぶと、後輪の両横に付けられたトランクを外して中身をぶちまける。衣類がひと箱、もう片方は衣類と缶詰の食糧だった。缶詰だけトランクに戻して、衣類の山からシャツを4枚取り出すと首の穴を袖で縛って即席の袋にしコインをそこへ移していく。目論見通り3枚で移しきれたので、それをトランクにしまう。
「ん?」
蓋が微妙に閉まらない。膝で踏んで力づくでトランクの蓋を閉めると、バイクの両サイドに再び装着した。
残った一枚のシャツ袋の中に頭を入れて口を縛り、プラプラと余った袖でハンドルに縛り付けた。
キーを回してバイクにまたがると、俺はレイダーのアジトへ向かった。
こうして俺が入ったレイダー集団は、初仕事のときに全滅した。
「ふぅ…一仕事終えた後の酒と煙草ほど旨いもんはねぇな」
周辺のレイダー共と話を付けた俺は、街へとやって来ていた。そう、例のリットンシティである。多額の現金をブラックマーケットで宝石に変え、わざわざ上層の鑑定士に鑑定書まで書いてもらった。そうしてトランクいっぱいの金は大粒のルビー1つと小銭入れ1つ分に変わった。
リットンシティはそう新しい都市ではない。丘の上に作られた、今のアメリカでもかなり大きい部類の都市だ。丘に沿うように歪な円形に作られたこの都市は、一番長い直径(というのも変な言葉であるが)で3キロある。形の想像が付かなければ、適当な目玉焼きを想像してくれればいい。概ね間違っていない。
さて、目玉焼きの白身の部分が下層である。丘の下に作られた日雇い労働者が主に活動するエリアだ。彼らは都市の北西部あたりに住処を定め、南西部の食品生産エリアで働いていることが多い。謎肉やら謎植物を育てている。都市の北東部にある宿場町で下働きをしていることも多い。この辺りでは飲食施設や娯楽施設が多く、ミュータントを討伐した際に換金する施設があったり、傭兵を雇い入れるような互助組織の窓口があったりする。都市の南東部(北東部、南西部にかなり場所を食われているためかなり小さい)は日用品や生鮮食品などを売っている市場が主だ。小規模な事業主などが住んでいることも多い。人を使って金を稼ぐというのはこの時代ではかなり大変な人物なのである。
都市の周りはぐるりと壁に覆われている。最初は錆びた廃車で囲んだだけであったが、車の両サイドに木の板を貼り付けて中に土を詰めていった。何千人という労働者を使い何度も何度も踏み固められ土を盛られた木板の内部は強固な壁に変化し、今ではかなり強力な守りとなっている。
さて上層部であるが、丘の上の限られた地域のことだ。目玉焼きの黄身だ。ここには裕福な層が暮らしている。別に出入りは禁じられていないが、あまり不潔では入店拒否されることもある。まあハエが集るような人を入れたくないと思うのは当然の心理だ。
裕福な人たちというのは具体的にどういうものかと言うと、食料品の生産をしている人たちである。工場を持っていたり牧場主であったり、とにかくこの崩壊世界においては食料難民が山のように居るので、金は無限に入ってくるのだ。
「コーンウィスキー、ダブルでくれ」
バースツールに腰掛けて、酒の追加をする。コーンウィスキーは放射能の影響で肥大化したお化けトウモロコシから作られる、超安価な酒である。味もそれなりだが、ハズレがない。当たりもないが。おまけに度数が高い。香りは殆ど無いためカクテルベースに最適なのだが、そんな洒落た物はこんな場末の酒場には存在しまい。突き出されたコーンウィスキーと引き換えに2ドル支払うと、懐から小瓶を取り出して酒に混ぜる。砂糖を花びらと煮詰めてカラメルにしたもので、これを少し混ぜるとなかなかうまい。なんの花かは知らない。そのへんに咲いているよくある花だと思う。露天で買ったものだからなんとも言えないが、どうもこの辺りでは肉を焼くのに使うらしい。半ばミュータント化している牛から取れる肉は、強烈な見た目相応にかなり強烈な臭いがするからそれも納得である。肉の色は、まだ辛うじて赤いのが救いだ。最近ピンクになりつつあるけれど、緑でないだけマシというものだ。
ナッツを齧り、コーンウィスキーを飲み、煙草を吸う。
「やはり噛み煙草とは違うな」
荒野は酷く乾燥しており、煙草は火事になりかねないため気軽に吸えない。そのため荒野に出る傭兵達は噛み煙草をよく利用するのだ。その割には銃をパンパカ撃ちまくるが、それはそれである。身を守るためには仕方ない。
何より、この煙草は旧時代の物であるためかなり質が良い。奪った護衛のバイクの背部に積まれていたトランクに入っていたのだが、嗜好品に金をかけられるということは例の護衛集団はかなりの稼ぎを上げていたようだ。サブマシンガンという弾薬の消費が激しい武器を使うのだから、それもまた納得と言ったところではあるが。
そうして酒を飲み、店主とこの辺りの賞金首の情報交換をしていると、突然バンという大きな音とともに外の光が差し込んだ。音の方を見れば、入口にほど近いテーブルのすぐ近くにいくつもの穴があいていた。
「誰だ!俺の店にショットガンなんてぶっ放した奴は!弁償…ぶっ殺してやる!」
そこに座っていた奴の身体がゆっくりと崩れ落ちた。だが人ひとり頭が吹っ飛んでいるというのに、誰も気にも留めていない。店主はカウンターの下からショットガンを取り出し、客たちはテーブルを倒して即席バリケードを作ると陰に隠れて各々の獲物を取り出していた。まったく、ひどい客層だな。俺は構わずグラスを傾けるが、飛んできた弾丸にそれを粉々に吹き飛ばされた。酒はカウンターにこぼれ落ち、ガラスの破片が頬を薄く裂いた。直後に口をバンダナで覆った男が、女の首に腕を回して盾にしながら店のドアを蹴破った。見たことある顔だが、知り合いではない。
入店直後に向けられる12の銃口。金を出せ、と口にするつもりだったかは定かではないが、ともかく気勢をそがれた彼は何も言わずに女の頭に銃口を押し当てた。
「おい、ここは静かに酒を飲むところだ。物騒なものをしまうか、さっさと出ていくか選べ」
店主がショットガンの照準を合わせて告げた。引き金には指がかかっており、顔は怒りで赤く染まり血管が浮き出ている。威嚇ではないことは赤子にすらわかる。
「落ち着けよおっさん。なにも俺はこの店に強盗しに来たわけじゃねーんだ。気のいい誰かが乗り物を貸しちゃくれないかとは思ったが、どうやら友好的な雰囲気じゃなさそうだな。日を改めて、今度は手ぶらでまたくるぜ」
男はそう言って後ずさる。
「おい、俺のコーンウィスキーを弁償してから行けよ」
俺が無残な状態になったグラスを振りながら話しかければ、そいつは胸元からやせた財布を取り出してこちらへと投げてきた。
「ほらよ!これでいいだろ!邪魔したな」
そう言って俺から意識を外した瞬間に、腰のホルスターからSAAを抜いて男の右手を撃ち抜いた。
「こいつは釣りだ」
ぐああと悲鳴が上がった。俺は素早くスツールから降りて男に近付くと、鞄から縄を出して男の手足を拘束した。
「どっかで見たことある顔だと思ったが、お前賞金首じゃねえか。悪いがガードのところまで一緒に来てもらうぜ」
俺は男を担ぎ上げると、胸元から財布を取り出してコインを数枚取り出した。
「俺の支払いと、店にいる奴らの分。それから穴の修理代の足しにしてくれや」
そういってカウンターに男の財布と一緒に金を置くと、店から出た。
直後に俺を取り囲む沢山の銃口。この街のガードたちの物だ。そりゃそうだ。流れ弾で店の壁に穴が開いたのだ。銃を撃ち合う相手がいたに決まってる。
「賞金首のグウェンってやつを捕まえた。鉛玉じゃなくて賞金を出してくれるとありがたいんだが?」
あとがき
更新が遅れて申し訳ないです。というか多分これからはもっと遅く(
言い訳すると、なんだか主人公のキャラがぶれた気がして一度書き直したのですが、最初とあまり変わっていない気がすると悩んだせいです。あと単純に余暇を友人とのゲームに費やしていたからです。そっちの方が一人でもの書くより楽しいしね・・・。
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