第3話 忠誠か、死か
一口にレイダー集団と言えど、その中身はピンキリだ。無法者の集まりという点は変わらないが、規律が厳格なものから、好き放題暴れまわるもの、食人集団まで様々存在する。
俺がシェルターを出てから最初に加入したのは、比較的規律に厳しいところであった。メンバーは俺を除いて男8人。仮住まいにしていた家に強盗に入られ、一人の頭に銃口を突きつけてやったところスカウトされた次第だ。
そんなこんなでレイダーの仲間入りをした俺だったが、最初の仕事の際に仲間が全滅した。
俺という火力を手に入れたチームは、今までよりも大きな仕事の計画を立てた。いや、その計画のために俺が迎え入れられたのか。
給料強盗である。リットンシティのオーナーであるリットン重機メーカーの給料を積んだバイク車(バイクで荷車を引いている)を襲うのだ。本社と工場の間にはちょっとした丘に挟まれた地形があり、その丘の陰に隠れて待ち伏せ、一気に上から護衛と御者を潰す作戦だ。護衛も当然バイクに乗っているだろうが、バイク車の速度に合わせるためかなり鈍足だ。そこまで当て難くないだろう。
作戦はかなり上手く行ったように思う。突撃班と援護班とに分かれたチームは、思ったよりも連携が取れていた。俺は新入りということもあり突撃班に振り分けられたが、まあ俺も無駄弾をバラまくのは趣味ではない。ワンショットワンキルが理想だ。その時使っていたのはスプリングフィールド・オメガ。9ミリカスタム仕様であり、威力はそこまで高くはない。装弾数は7発。
敵は俺の位置から向かって左側から現れた。随分と数が多い。御者含めて18か?だが向かい側の丘の上に赤い旗が立てられた。作戦開始だ。
全力で丘を駆け下りながら、まずは御者を狙う。両手でしっかりと握り込んだグリップ。右人差し指でトリガーを引く。銃身から放たれた9ミリパラベラム弾は確実に御者の脳幹を引きちぎり、弾は後ろへ抜けていく。左手の力も使い反動を完璧に抑えた俺は、即座に次の敵へ狙いをつける。その時もう一人の御者が蜂の巣になっているのが見えた。それを確認した俺は左手を離し銃を横持ちする。ギャング映画のようにカッコつけるためではなく、反動を横に逃がして次の敵への照準を楽に合わせるためだ。
「敵襲だ!」
まずは先頭を守っていたやつを狙う。頭を狙ったのだが、走っているため少し下にブレてしまい右肩を破壊。しかし数秒は戦闘不能だ。そいつの後ろを走っていたライダーへ狙いを定める。撃つ。ヘッドショット。制御を失ったバイクはそのまま惰性で走り続け、荷車に衝突し横転し、そのまま回転する。後続のバイク1台はそれに巻き込まれてクラッシュした。バイクから投げ出され倒れた護衛の頭に弾丸を叩き込み、他の護衛を撃つ。
「チッ」
また肩だ。しかも今度は少し浅い。続けざまにもう一発撃ち、今度は頭に命中。だが敵はサブマシンガンに指をかけており、衝撃でトリガーを引いたのか弾がそこかしこにばら撒かれた。
「ぐわっ」
隣を走っていたやつが運悪くそれに当たった。死んだかどうかは分からなかったが、そんなことを心配している余裕などない。敵が組織立って撃ち返しはじめたのだ。彼我の距離は10数メートル。連射武器なんて勝てるわけがない。
横っ飛びで先程の仲間の陰に隠れると、首を掴んで起き上がり、味方を盾に突っ込んだ。
俺の銃にも入っているが、サブマシンガンに多く使われる9ミリパラベラムバレットというのはあまり威力は高くない。人を殺す程度の威力はあるが、アーマーを破るほどではない。だから味方のアーマーで止まればよし。もし貫通しても俺のアーマーで止まるはずだ。文句の言葉が無いから死んでいるのだろう。
味方の身体で視界がかなり遮られるが、腋の間から突き出したオメガは仕事をした。一人の脳天をぶち抜いて、弾切れ。
リロードする間も惜しく、荷車の陰に突っ込んで敵のホルスターから銃を引っこ抜く。コルト・シングルアクションアーミー。めちゃくちゃ骨董品だ。きちんと整備されているようで、ともかくそれを構えて荷車の陰から顔を出すと銃声がやんでいることに気がついた。どうやら片がついたらしい。最初に肩を破壊して戦闘不能にした敵の頭をしっかりと狙って銃弾を叩き込み、この銃のクセを確認する。うん、いい銃だ。
ホルスターを回収・装備して、荷車を背にSAAを光に当てて眺めていると、生き残った仲間が集まってきた。生き残りは俺を含めて5人か。
「おら、どけよ」
「
そうして荷車に預けていた体重をしっかり両足にかけると、一歩前に出た。ボスの右腕格が俺の肩を押しのけて荷車のドアに手をかけると、ガチャガチャと引っ張った。鍵がかかっている。まあそれも当然だ。わざわざ鉄の荷車を作っておいて、鍵を付けないなんてありえない。
「ざけんなっ!…おい新入り、鍵探してこいや!」
随分と短期だ。そのくせ随分と呑気だ。いや、頭が無いだけだろうか。
この辺りはもうリットンシティのガードの警戒範囲である。これだけパンパカ火薬を使っておいて、気付かれないなんてありえない。かと言ってそこまですぐに敵が来るわけでもない。
「はぁ…
こういう場合、鍵を持っているのは偉いやつであると相場が決まっている。真ん中あたりを走っている高そうな装備のやつを探せばいい。そうして少し荷車から離れたところの死体に近付く…ん?まて、荷車と言えど荷物以外を乗せてはいけない訳ではない。もしかして中に。
鳴り響いたバギャンという轟音に振り返ると、荷車の上部に少しだけ開けられた窓穴を覗き込んだと思われる奴が顔の上半分を吹き飛ばされて崩れ落ちるところだった。先程の鍵野郎である。ボス以外の二人が走って荷車に取り付き、窓穴にライフルを突き刺して乱射した。ワンマガジン撃ちきって銃を穴から引き抜くと、ドアの下から血が滲み出してきた。どうやら当たったようだ。
さて、中にいるやつが鍵を持っていてあの窓から受け渡しをしていたのだとしたら、開ける手段は無いことになってしまった。
「ジョージ!開けろ!」
ボスの指示で細身の男がドアの前に立った。懐から何かを取り出すと鍵穴に突っ込んだ。耳を当ててガチャガチャとやり始めるのかと少々期待して見ていると、おもむろにホルスターから銃を抜いて1歩、2歩と後ろへ下がると鍵穴に向けてぶっ放した。ガンと銃弾が鉄の鍵穴に当たり、火花が散る。そうして中に詰めた物にも引火し、小さくドカンと音が鳴った。鍵穴周辺を吹き飛ばした爆薬はその役目を終えると、もう音はいいだろうと静かに白い煙を上げていた。
ゆっくりと開いた荷車の中にボスが乗り込むと中を物色し始めた。残り3人になってしまった兵隊たちは周囲の警戒をしながらこのあとの甘い報酬について考えを巡らせる。俺はというと、小型核融合炉搭載型の電動バイクのことで頭がいっぱいであった。静音かつ超高速。電源としても使えるから、このシェルターから持ち出してきたコンタクト情報端末を充電できる。核融合炉の方は持っていても、それだけでは充電出来ずに困っていたのだ。
「諸君、給料日だ」
冗談めかして荷車から降りてきたボスは、兵隊達を集めた。キッチン秤を右手で振りながら上機嫌であった。
「喜べ諸君、この袋いっぱいに入った金は我々の物だ」
歓声が上がる。
「ここには48ポンドのクォーター硬貨が詰まっている!」
1キロが2.2ポンドなので、約22キロだ。クォーター硬貨が1つ大体5.5グラム。つまり…いくらだ?面倒だな。金単体の計算なら良いんだが重さがどうのという計算はなんでかすぐに頭が働かない。大体ポンドってなんだよ。グラムで統一しろよ。
「つまり約10万ドルもの大金だ!」
公正労働基準法の無い今では、購入するときの額面は崩壊前と変わらないくせに給料は段違いに低い。そんなわけで相対的に物価は上がっている。10万を4人で分けたら2万5千ドルだ。正直期待以上である。取り分が増えたからということも大きいが。他のやつがボスに金を貰いに行っていたので、俺も後ろに並ぶ。
「おっと、お前は無しだぜデイモン」
「は?」
そうして俺の番が来たと思ったら、もうすでに袋の中身は空っぽだった。
「どういうことだよ、ボス。少なくともこの中で一番敵を殺したのは俺だ。そして一番危険なところにいたのもな。役割を分けているんだから多く寄越せとは言わないが、せめて同額寄越すべきだろう」
割に合わなすぎる。最低だ。そんなことを言って詰め寄ると、ボスはニヤニヤと笑って告げた。
「そんなこと言ったって、こいつはルールなんだデイモン。俺たちのチームは、入って最初に受けた仕事は新入りには金を渡さねえんだ。金の使い方ってものをわかってねえからな。お前の取り分だったところから、弾や銃の整備、服やら飯を買い与えてやる」
それが俺たち全員が通ってきた道なんだぜ、ボーイ。とボスは言った。
「確かに俺はガキだが、金の使いみちくらい弁えてる。欲しいバイクがあるんだ。そのために金を貯めたいんだよ」
だから寄越せと左手を出すと、ボスは呆れたように首を振って指差した。
「おいおい、バイクなんざあそこにいくらでも転がってるだろう?掟には従えよ、ルーキー」
「この俺に忠誠を示せ」
ボスの説教の最中、他の二人がボスの横に並んで銃を手にした。そうしてこちらへと向ける。撃鉄は起こしていない。威嚇だ。
「
「
「そりゃ俺だって命のほうが大切だ」
俺が身体の緊張を解いてそう告げると、銃を構えていたふたりの指から力が抜けて、トリガーガードに人差し指を移動させた。そうして少し銃口が下を向いた。バカが!
「だがお前らの命は別だ」
右手のSAAを即座に構え、左手で撃鉄を上げるファニングショット。わずか0.3秒で奴らの頭に風穴があいた。
「悪いな。金と命と、両取りしてやるよ」
そっちのほうが賢いだろう?
前に2回リボルバーをくるくると回すと腰のホルスターに収めた。
あとがき
オメガは割と調べたのですが装弾数分からなかったので適当です。ツッコミがあっても無駄弾を撃つだけの修整になりかねないので、このままで。形がカッコ良かったから出したかったんや…。あ、唐突な英語は趣味以上の意味はないです。たまに出るかもしれませんがちょっとしたフレーバーとしてスルーしてもらって結構です。
コンタクトはコンパクトの誤字ではなく、目に入れるコンタクトです。
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