憶 A面
何処かで見たことがある。少し離れた隣町へ出かけた帰りの電車の中で、そう思った。
都会とは言えないこの町を走る二両編成のローカル線は乗車する人も少なく、車内は見晴らしが良かった。
購入した物をしっかりと膝に抱えながら、斜め前に座る女子高生を見た。勿論、やましい気持ちなどではなく、やけに記憶に引っかかる物があったからであった。
不躾だとは思いつつも、女子高生が携帯に夢中なのをいい事についつい見てしまう。一体どこで会ったのだったろうか。
制服は、最寄駅から三十分ほど電車を乗り継いだ所にある高校の制服のようにも見えるが、スカートは短く折られ、カーディガンを羽織っているせいで何処にでもいるような女子高生の格好になっている。髪も薄い茶色に染められ、下の方でシュシュにより緩く結ばれている。私の記憶の中の女性は黒髪で、もっときちんと纏められていたような。
顔立ちは、携帯を見ているせいでハッキリとは分からないが、お化粧自体はあまり濃くはないようである。猫のようなつり目と、小さめだがスっと通った鼻筋にはやはり見覚えがあった。
そうだ、昔もこの辺りに住んでいた時があった。その時のお隣の吉野さんの娘さんが、このような顔立ちをしていたのだった。
なるほど、あの時の小さな女の子がこんな娘さんを産んでいたとは。とても驚いてしまった。時が経つのは早いものですね、とどこか感心したようにひとりごちた。
引越してしまったあとは交流が途切れてしまっていたため、久しぶりにあの記憶の中では小さいままであった彼女に会いたいと思った。女子高生に私のような大人が話しかけるのは些か気が引けるが、事情だけでも聞いて貰えないだろうかと意を決して立ち上がった。
ちょうど、プラットフォームに電車が入っていったようで、揺れは止まっていた。
できるだけ穏やかな顔を意識しながらゆっくりと近付き、女子高生に話しかけようとした瞬間彼女は何かを思い出したように大きな声を出した。
「そうだ、ひいばあちゃんのアルバムの人」
あぁ、引っ越さねば。
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