第4話 勇者パーティーの修行方法
危ない、本気で錯乱しかけた。
まだ訳が分からない状況に変わりはないというのに取り乱してどうする。
これではいつまで経っても埒が明かないし何も解決しないじゃないか。
「異世界から来たかどうか信じるのは置いといて、何でゲームで修行なんてことになるわけ? 別に態々違う世界に来なくても、自分達の世界で修行すればいいことでしょ?」
「それはそうなんですが……」
「師匠の話では、時間稼ぎらしいですけどね」
「時間稼ぎ?」
ずっと私と話していたチビに拳骨落とした少年が口籠ると、ジジイの口を塞いだままの少年が助け舟を出すように話に割り込んできた。
因みにタブレットにあるジョブだと、格好から考えて拳骨の少年が剣士で、口を塞いでいる少年が神官ってとこだろうか。
それで未だにどこかつまんなそうな顔で黙ったままの少女が魔導士、まあ、チビが本当に勇者ならば、そうとしか考えられないってだけだけど。
「時間稼ぎってどういうこと? まさか、こっちの世界にいる間はあんた達にとって時間が経たないも同然だとでも?」
確か、何かの話で時間が経過しない異空間を作り出したりとかしてたような気がするな。
それと似たようなもんなのか?
「お姉さん、察しがいいですね。その通り、元の世界に戻る時は、こっちに来た時と全く同じ時間に戻るんで、ここにいる間は元の世界では時間が経過しないも同然なんですよ」
「はあ? 本当にそうなの!?」
何だそれは!? まさか適当に言ったことが肯定されるとは思わなかったぞ。
いや、でも本当にそうなのか? 神官っぽい少年が適当に話を合わせてる可能性もあるよな?
それにしても、神官っぽい割にはざっくばらんな口調だな?
寧ろ剣士っぽい少年の方が丁寧な口調だし。
「だからって何でゲームで修行することになるの? 時間稼ぎが必要なのは分かったけど、それって自分達の世界でどうにかならなかったの? 例えば、時間の経過しない異空間を作ったりとか」
時間稼ぎが必要なら、それで済む話じゃないのか?
別に態々異世界から来る必要はないでしょ。
「確かに、自分達の世界でそういう異空間を作ることは可能なんですけどね」
うん、なら何故そうしなかった?
それなら私がこんな目に遭わずに済んだんだけど。
「ただそれだと、怪我した場合、治るまでに時間を要するんですよね。回復魔法を使えば直ぐに治る傷もあるけど、重傷だとそうもいかなくて。魔法だけじゃ治らず自然治癒が必要な場合もあるんですよ」
ふーん、そうなのか。
ラノベでそういうシーンあったけど、こいつらの設定もそうなのか。
でも、だからって何でゲーム? ゲームで修行ってどういうこと?
「正直今はその怪我を治す時間も惜しいんです。そこで師匠が、こちらの世界のゲームってやつに目をつけたんですよ」
「どういうこと…?」
うん、だから何でゲームなのかが分かんないんだけどね。
ゲームが何で修行になるんだ?
「そのゲームとやらは、戦闘があるものではキャラクターというものを育成したり強化したりするそうですね?」
まあ確かにそういうのではキャラや武器を強化したりするけど、それがどうしたんだ?
「師匠の話では、俺達の代わりにそのキャラクターに修行をさせ、その成果を俺達自身に反映させることで俺達自身が力をつけることが出来るそうなんですよ」
「…はあ!?」
何だその無茶苦茶な設定は!?
ゲームのキャラが自分の代わりに修行する?
そしてその成果が自分に反映される?
そんなバカな話があってたまるか!
「因みに俺達に反映されるのは修行の成果だけらしいです。キャラクターとやらが死のうが怪我しようが、それが俺達自身に反映されることはないとか」
いや確かにキャラが死んでも、ゲームをプレイしているプレイヤーが死ぬこともなければ怪我することもないけどさ、だけどいくら何でもご都合主義過ぎやしないか?
「ただ死ぬことも怪我することもない代わりに、キャラクターが修行することで感じる疲労や攻撃を受けた際の痛みや衝撃は反映されるらしいですけど」
なんだそりゃ? 何か意味でもあるのか?
「何でも本来修行で肉体が受ける筈のそうした疲労や苦痛を経験していないと、実際の魔王軍との戦闘で肉体的に不可能で無謀な行動に出る危険性が有り得るとのことで、そういうことにしたらしいです」
成程、実際の自身の実力や限界をちゃんと弁えていないと、本当にそれが出来るかどうか、それがどれだけ肉体に負担を掛けることになるかってことも一切考えずに無謀な行動に出て取り返しのつかないことになる可能性が高いからってことか。
まあ、ゲームやっててキャラがどれだけ攻撃受けてもプレイヤーがその痛みを感じることはないし、だからこそ平気で二、三時間ぶっ通しでプレイ出来たりもするしね。
さて、ここまではこいつらが異世界から来たって設定で話をしてきたけど、そろそろ色々と何が事実かをはっきりさせたいとこだな。
「それで、だからって何故あんた達がここにいるのかしら? 正直異世界から来たなんて信じられないし、本当だとしてもここに来た理由が全く分からないんだけど」
仮に本当だとしても、私のところに来た理由なんてさっぱり分からないんだけど。
というか、何故ここに来た?
「その理由を話すのは師匠に任せます。俺達が異なる世界から来たってことはこの後証明出来るかと思います。その前に、俺達の修行が終わるまでは、その薄い板のようなものをお借りすることを了承して頂きたいのですが…」
「…はあ!?」
いや、だから何でそうなる!? そりゃ本当にその為に異世界から来たってんなら、そのタブレットを使うしかないんだろうってことも分からなくはないけど。
だから、何で私のタブレットなの?
本当に何でこいつらは私のところに来たのよ?
それが全然分からなくて謎なんだけど。
もうやだ無理、もう訳が分からない。
というか、こんな展開いらないんですけど!
本当に、何がどうしてこうなった!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます