第5話 適当すぎる理由
ああもう頭が痛い。
異世界云々を納得したわけでもないのに、何でこいつらが私のタブレットで修行するのを了承しなきゃならないのよ。
しかも了承してからじゃないと証明出来ないだと?
ふざけるのもいい加減にしろ!
「あのねえ、この状況に納得出来てないのにそんなの了承なんてすると思うの?」
「それは、確かな無茶なことだとは思いますが…」
「まあ、普通に考えて有り得ないよな」
無茶で有り得ないことだと思うなら、それを押し付けるような真似はするな。
全く、一体何を考えてるんだか。
「取り敢えず、こうなった経緯を師匠に説明してもらうか。…お姉さん、怒りそうだけど」
「それは、そうだろ…」
どういう意味だ、それは? そんなにとんでもない理由なのか?
「はい、ってことで師匠、お願いしますね」
神官みたいな格好の少年が、ジジイの口を塞いでいた手を離してその背中をポンと押す。
そういやスルーしてたけど、いつの間にかジジイの顔真っ青になってたわ。
つまり息苦しくなるくらい、強く口塞いでたってことか…。
「…ゲホッ、ゴホッ! ハアハア…、お前は儂を殺す気か!? 死ぬかと思ったわい!」
「やだなあ、師匠がこの程度で死ぬわけないでしょ。殺しても死ななそうなのに」
「そんなわけあるかっ! バカもん!!」
ジジイが青筋立ててブチ切れてるが、神官みたいな少年は全く悪びれずに飄々とした態度でヘラヘラと笑っている。
まあでも、私もジジイがその程度で死ぬとは思わないし、殺しても死ななそうってのにも同意だな。
「兎に角、そこのお姉さんに、何故俺達がここに来たのか説明してあげて下さいよ。それに、ちゃんとこれが現実だって証明することが出来るのも師匠だけなんですから」
「何故儂がそんな面倒なことを…」
「思いついたのも実行したのも師匠なんですから、師匠が怒られるのが筋ってもんでしょ」
おい、どういうことだ? つまり、そのジジイが原因ってことか?
「何故儂がこの娘に怒られねばならんのだ? そんな理由もないというのに」
「そう思っているのは師匠だけです」
うん、もう充分ブチ切れそうな気がしてきたぞ。
一体何をやらかしてくれたんだ、このジジイは。
「全く仕方ないのお…。おい娘よ、儂らがここに来たのはな、修行に必要なアプリとやらをお主が最初に開いたからじゃ」
「…はあ!?」
どういうことだ、それは?
最初に開いた? 何だそれは!
「こちらの世界の者達に、そのアプリを適当にばら撒いたのだが、それを一番最初に開いた者のところで修行を行うことに決めたのだ。そして、それをお主が最初に開いた。つまりそういうことだ」
そういうことってどういうことだ!?
適当にも程があるだろう!
「まあ、念の為、数人はそのアプリを見たら強制的に開くよう小細工しておいたのだが、どうやらお主はその小細工しておいた内の一人のようじゃの、ふおっほっほ」
ふおっほっほじゃないわクソジジイ!
何してくれてやがんだこの野郎!!
「何考えてるのよ、このクソジジイ! 人の迷惑も考えなさいよ!!」
「何だと!? 無礼な娘だな! これ程の名誉を迷惑だなどと!」
「どこが名誉なのよ!? 私にとっては迷惑以外の何物でもないわよ! あんた達の基準で考えないでほしいんだけど!!」
それのどこが名誉だ!? 異世界云々が本当なら、そんな理由で私のタブレットを使おうとしてるんだから、大迷惑もいいとこじゃないか!
「だから、怒られるって言ったのに…」
神官みたいな少年が呆れた目で溜息を吐く。
あのさ、溜息吐きたいのはこっちなんだけど。
何なのよ、この訳の分からない理屈こねるこのクソジジイは?
何で、異世界の勇者パーティーの修行に強制的に協力させられるのが名誉になるのよ?
こっちにしてみたら、関係ないのに巻き込まれて迷惑なだけなんだけど。
「これ程の名誉が分からないとは…」
「師匠、お姉さんが迷惑なのは当然ですよ」
「…どういうことだ?」
本気で分からないとは、何て迷惑なジジイなんだ。
神官と剣士の格好した少年二人は理解しているというのに。
「勇者パーティーの修行に協力することを名誉と思うのは、俺達の世界に限ったことですよ。本来、俺達の世界で魔王が復活することもそれを討伐することも、こちらの世界には関係のないことなんですから」
「関係ないことくらい分かっておる。だから、何故それが迷惑なのだ?」
本当に分からないのか…。
本気で嫌になってきたぞ。
「あのですね、だったら師匠、もし俺達が修行の為に師匠の家に居候します。その間、師匠の家の物は俺達が自由に使いますので、師匠にはそれらを使う権利はありませんって言われたらどう思います?」
「そんなこと許されるわけがないだろう! 何故儂がお前達の為に自分の物を使えなくなるのだ!!」
「師匠がお姉さんに強要しているのは、それと一緒ですよ。それも理解出来ないんですか?」
「うっ…!」
漸く理解したか…。
というか、人には名誉だとか言っておきながら、自分がやられたら迷惑って…。
「お姉さんにはこれは名誉なことだって言ったのに、師匠自身は同じことされたら迷惑ですか。随分と勝手ですよね?」
「う、うう…」
そうだ、もっと言ってやれ。
自分がされて嫌なことを他人に強要するな。
「確かに、迷惑かもしれん…。だが、本来この世界の者がこんな経験をすることはないのだ。これは貴重な機会だと喜ぶべきだろう!」
「何でそうなるんですか!?」
「そうよ、ふざけるのもいい加減にしなさいよ! 自分に都合良く解釈しすぎよ!!」
何でそんなとんでもない理屈が出てくるのよ!?
私はそんな経験出来ても嬉しくないんだけど!
どうせなら、この状況に喜んでテンション上がる奴のとこに行ってよ。
そういう奴なら、そんな無茶苦茶な理屈も理解出来るでしょうよ。
もう、本当にこのクソジジイ嫌だ。
いくら何でもふざけすぎでしょ。
誰か、本気でそいつをどうにかしてくれ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます